ピンポーン。
あなた「山口くーん。来たよー」
現在、夜の7時半すぎ。
うちは、お母さんに用意された洋服で山口家にやってきた。
肝試しに行くと言って、ジャージで行こうとしたら、何故か全力でとめられたのだ。
『可愛い顔してるんだから、もっとちゃんとした身なりで行きなさい』だとよ。クラスの子見てよ、うちより可愛いよ。
と言うわけで、うちの服装は白いトップスに、いつのまに買ってきた黒の半ズボンを履いてきた。
そして、半袖が落ち着かないのでやはり上は部活のジャージを羽織った。
だが、足がかなり露出しているため落ち着かない。
それで下もジャージを履いて行こうとしたら、『何やってんの』とつっこまれたのだけれど。
しばらく待っていると、ガチャリとドアが開いた。
そこに居たのは、すごく優しそうな女の人。山口くんに雰囲気が似てるから、お母さんだろうか。
「あら、もしかしてあなたちゃん?」
あなた「あっ、はい!あの、山口くんは……」
「ちょっと待ってねー。忠ー!」
しばらく待っていると、『忠ー、彼女がきてるわよー』『彼女じゃないよっ!!』と会話が聞こえてきた。
そしてドタドタと足音が近づいてきて、再びドアが開かれる。白いTシャツと黒いズボンを身につけた山口くんだった。
あなた「行こ」
山口「う、うん。遅くなっちゃってごめんね」
あなた「全然ですよ」
2人は並んで歩き出す。静かな住宅地に、2人分のサンダルの音が響いた。
山口「……やば。緊張してきちゃったよ…」
あなた「ですね…やっぱり、やめといた方がよかったかな」
山口「まぁまぁ、せっかくの思い出作りとして、楽しも?」
あなた「ですね…」
学校裏の霊園近くには、ある動物の像が建てられている。
そこが集合場所となっていて、そこにはすでに、30人ほどが集まっていた。
もちろん、そこには日向くん、影山くん、そして仁花ちゃんも。
うちはその3人を見つけると、全速力で駆けていった。
あなた「やほー!」
日向「おぉっ、あなた!」
影山「来たのか」
あなた「はい。……まだ参加者はいるんですか?」
日向「いや、これくらいらしいぞ。さっき聞いてきたんだ!」
山口「ツッキーは?」
谷地「私たちはまだ会ってないよ。来ないのかな?」
来てないのか……ちょっと残念だな。
シュンと眉を下げると、山口くんがひょこりと顔をのぞいてきた。
山口「ツッキーが居ないとイヤ?」
あなた「え?そっ、そんなことないですよ!」
ぶんぶんと手を振って否定する。
山口「嘘つき____________」
あなた「………え?」
山口「え?あっ、ううん。ほら、主催者の人が呼んでる。行こう?」
あなた「う、うん」
『嘘つき』。
彼はたしかにそう言った。
いや、でも____________。
……やっぱ分かんないや。
〈今回の肝試しのルール〉
・この霊園の裏の山を一度登り、帰って来れたらクリア。
・男女で1組になって行動する(何で?)。このペアはくじ引きで決めること。
・ペアに一つ、懐中電灯が渡される。
・この山には、仕掛け人がいる。どこにいるかはお楽しみ☆(は?)
肝試しは、そんなルールだった。
男女1組でペアかぁ…できればバレー部の人がいいな。慣れてるし。
慣れてるって言うか、それ以外の男子と喋ったことほぼないだけだけど。
「女子はくじはこっちで引いてくださーい」
あなた「ひっ、仁花ちゃん、どうしよ…」
谷地「私2人の面倒見るために来たからなぁ……」
お互い恐る恐るくじを引く。
うちのところに書いてあったのは、12番だった。
12番か……だれだろ。お願いだからバレー部(ry
男女ともにくじを引き終わり、1番からペアが決まっていく。
中にはカップルがペアになったとこもあり、大変盛り上がっていた。
そして、仁花ちゃんは運良く日向くんとペアになったのである。日向くんも怖いの苦手っぽいけど、大丈夫かな…。
山口くんはクラスの子となっていて、ちょっとオドオドしていたし、影山くんは眼光が鋭すぎて相手の女子に怯えられていた。
もう分かるだろうか。
そう、うちは運悪く、知らない人とペアになったのである。
知らない人というか、名前しか知らない人。
確か名前は……赤城くん、だったかな?下の名前は忘れたけど。
なんか男子テニス部の期待の一年生!とか言って話題になっていたことがある。
噂では、1週間に1回は必ず告白されるほど人気なのだとか。
よく知らないけど☆
赤城「こっわー。君、怖いの得意?俺苦手なんだけどさ」
あなた「あ、えっとー……自分も苦手です……あの、兎和って言います、えっと、」
赤城「怯えないでよー笑。そんな怖いかな?俺」
うーんと悩みながら黒髪に入った赤のメッシュをいじる赤城くん。
ぽんぽん話を進めていくのについていけないが、根は良い人のようだ。
赤城「……あ、俺らの番だ。行こ」
あなた「……はい」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!