夢だ。
誰かが、呼んでいる。
源氏名ではない、俺の名前。
足元に伸びた影は短く、二つ。
幼き自分の小さな指に、もう一人の温もりを感じる。
_______約束する、迎えに行く。
そんな、こともあったっけ。
なかったっけ。
妓楼に来る前の記憶は殆どない。
思い出せない。
離れた小指が名残惜しいのに
遠ざかる影を追いかけたいのに
俺は一歩も動かなかった。
夢だ。
夢だ、存在しない記憶だ。
俺は、妓楼の花。
今日も、また夜に咲く。
髙地「おい、起きたか?」
『...今日は何人。』
髙地「大我、覚えてない?」
お前、身請けされたぞ。
...あ。そうか。
でも、俺って結構値、張るよな...?
あの松村北斗とかいう男、どんだけ金あるんだ...?
『夢、じゃないよな...』
髙地「嫌か?ま、拒否権ないけどな」
『いや、じゃないけど...』
最高に気持ちよかった。
昇天なんて大袈裟でもない、そんな感覚。
何度行為しても感じられなかったのに、相性が余程いいらしい。
でも、確か彼奴は呉服屋の旦那か何かだ。
忙しいとか言って相手にされないことは目に見えている。
...だから身請けは嫌だったんだけど。
そもそも外聞はどうなってるんだ。
妓女なんて身請けしようものなら、彼奴の店は大変なことになるだろう。
髙地「あ、ちなみに」
髙地「俺も着いてくから、お前の世話係な」
なんかこいつ結構ウキウキなんだけど。
嫌だなぁ...
事は地味に大きいらしい。
花魁は妓女の最高位。
しかもあの異端児が身請けされるなど...
どんな旦那だ、どれだけ積んだ、どんな宴になる。
『ねー、髙地、』
髙地「残念ながら駄弁ってる暇ねぇんだよ」
「まず、衣装合わせからな」
...忙しいぞ、これ。
髙地「まぁとはいえ、相手が呉服屋の坊ちゃんだから、ある程度の衣装は保証だわ」
どうやら早速今日、使いがうちに来るらしい。
...やだなぁ、女だったら。
「しっつれーしまーす!」
田中「呉服屋松極、田中樹でーす」
よろしくおねがいしますと手を差し出す、どことなくへらへらとした男。
どうやら此奴が松村北斗の使いらしい。
そういえば昨夜も居たような居なかったような。
田中「そしてこちらが、」
ジェシー「ルイス・ジェシーです、宜しくね、タイガ」
異国感のある顔立ちにすらりとした長身、名前の通りこの国の生まれではないのだろう。
田中「ジェシーはうちの店の問屋さんでね」
ジェ「最近は海外にも手を回してるんだ。お姫様がお気に召すといいけど」
ちょっと気障だけど顔がいいだけあって違和感はない。
...お姫様って、俺のことか?
ジェ「で?北斗からは大我の意思に任せるとだけ言われてるんだけど」
「どんなのがいい?一応ちょっと持ってきたんだけど」
ジェシーが指を鳴らすと、たくさんの着物と小物が運び込まれてくる。…気障だなぁ。
…あれ?
なんか、ほんとに、え?
全部女物なんだけど。
田中「あぁ、そうだそうだ、言い忘れてた」
田中「松極ってちゃんとした店だからさ?」
「あなたが遊郭の華だってことは明かさない。これは俺とジェシーと北斗、あとそこの付き人さんだけの秘密ね。」
髙地「…だとしたらよ、こいつ男だぜ?しかも京姫がいなくなったとなると、花街は大騒ぎだ、少なくとも楼主は認めねぇだろ」
田中「だからさ、言ったでしょ?ちゃんとした店って。」
「金はあるんだ、さっき積んだら飛びついてたよ。京姫は秘密裏に受け渡す、としっかり認判も貰った」
…そうかよ。俺は所詮そこまでだった、ってことかよ。
体を売って、金で売られる。それが、天職の果て、ってことだ。
髙地「ちなみにいくら積んだんだ?あの金の亡者のことだ、身請け金の二倍は下らんだろ?」
田中「…さぁね。」
「とにかく、妓楼出身なことは秘密。あともう一つ」
「表向きは、女ってことで宜しく!!」
片目を瞑ってみせた田中。
今、女に、なれと…?
お久しぶりです











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!