かなり長くなってしまいましたが、
前回より岡田飯要素を多くしたつもりです。
次回は一人語りはやめて2人とも出したいと思います。
「おめでとう亮賀」
「うん!ありがとう」
目の前の君は今までに見たことがないくらい笑顔だった。
「俺はさ、デビューできなかったけどさ、それでも…」
「あごめん、もう行かなきゃ。みんなが呼んでる」
「え、あぁ。うん。そうだよね」
目の前の君はそのまま万遍の笑みで走り出した。
向こうではデビューした他の11人が待っている。そこに亮賀が加わり歩き出した。
何やら楽しそうに会話している。
「ま、待って!」
ありったけの声で叫んでみる。
亮賀は気づかない。振り向かない。
他のみんなも振り向かない。
あっという間にみんなは遠くへ行ってしまった
俺は追いかけることも出来ず、その場で立ち尽くすしか無かった。
置いていかないで。俺も連れて行って。
目を開けるとそこは見慣れた一人暮らしの天井
「夢かよ、勘弁して。」
混濁する意識の中でノロノロと起き上がる。
そして深呼吸を1つ。
やっと目が覚めてきた。
「まあ、終わったことだし。」
そう呟いて立ち上がる。
夢の続きを追うほど、暇じゃない。
存外俺は済んだことは引きずらないタイプだ。
あの日、俺の名前は最後まで呼ばれることはなかった。
全てが終わった時。1番に感じた。
やっと終わった。
チームのメンバーと夢を語り合ったあの時の幸福感や舞台に立った時の高揚感。
今でも忘れることはないほどに大切なものだった。
だけど、それと同じくらい、またはそれ以上に、
周りとの力量の差に打ちひしがれ、
明日がないかもしれないという焦燥の感に晒され続けた。
終わった瞬間はそれら全てが自分から流れ落ちていく感覚があり、喪失感だけではなかったと言えてしまう。
自分はあっけらかんとした人間であるとその時再認識した。
だからものすごく気持ちが沈んで何も手をつけられないなんて状態ではなくて、今日も普通に生きるために働く。
洗面所へ向かい、歯を磨く。
やっぱり鏡に映る自分は、いつも通りの顔、
……のはずだった。
気づけば、洗面台の端に置いたままのネームプレートへ目がいく。
「まだ捨ててなかったのか。」
そう言いながら手に取る。
捨てようと思えば、いつでも捨てられた。
なのに、三週間経った今もそこにある。
「記念、だから。」
誰に言い訳するでもなく、小さく呟く。
それを引き出しへしまい、蓋を閉める。
閉めたはずなのに、頭の中ではあの日の光景まで閉まってくれない。
審査員の視線。
ステージの照明。
胸が痛くなるほど高鳴った鼓動。
そして――結果発表。
何の因果か、
こういう時に思い出してしまうのはいつも決まっていた。
「亮賀…」
亮賀の名前が呼ばれた瞬間、思わず拍手をしていた。
誰よりも努力していたことを知っていたから。
「あいつ、上手くやってるかな…」
何もかもが初心者だったあいつは今でも色々なことと戦っているだろう。
あの時もそうだった。
朝早く集まって一緒に発声をして、
夜遅くまでダンスの動画を撮り直して。
「絶対、一緒にデビューしようね。」
真剣な眼差しでこちらを見る亮賀を今でも鮮明に覚えている。
だから、デビューしたのが亮賀でよかった。
……本当に、そう思っている。
スマホの通知が鳴る。
『KO1KEYZ デビューに高まる期待。』
ニュースの記事だった。
「おぉ……すげぇじゃん。」
自然と笑みがこぼれる。
画面に映る12人はとても真剣な表情だった。
自然と亮賀に目が行く。
いつもの硬い表情だったけれどその奥に小さい勇気と大きな優しさに溢れていた。
「おめでとう。」
心からそう思う。
それなのに。
記事を閉じたスマホの黒い画面には、少しだけ歪んだ自分の顔が映っていた。
「……なんでだよ。」
嬉しいはずなのに。
応援したいはずなのに。
胸の奥が、じくりと痛む。
あの日、一緒に見ていたステージ。
隣に立つはずだった未来。
全部、亮賀だけが先へ進んでいった。
「いや……違う。」
置いていかれたんじゃない。
俺が届かなかっただけだ。
そう言い聞かせる。
「もう引きずってない。」
言葉にしてみる。
「亮賀がデビューして良かった。」
それも本心だ。
「俺は…大丈夫。」
三度目に口にしたその言葉だけ、少し震えていた。
玄関を出て駅へ向かう。
イヤホンから流れてきたのは、オーディションで二人が何度も練習した曲だった。
初めての同じパート。ダンスも歌も二人で死ぬほど練習した。
無意識に再生していたことに気づき、慌てて停止する。
静かになった街の音が、妙に耳につく。
ふと、メッセージアプリを開く。
一番上には、犬の写真。亮賀のアイコンだ。
『デビューおめでとう』
送ろうとして打ち込んだ文字は、まだ送信されないまま入力欄に残っていた。
送ればいい。
たった一言なのに。
指は送信ボタンの上で止まったまま動かない。
本当は祝福したい。
本当はまた隣で笑いたい。
その二つの気持ちは、どうしても同じ場所には収まってくれなかった。
「なんだよ、以外の引きずるタイプじゃん…俺」
小言をひとつ吐いてからまたイヤホンをつけて歩き出す。
自分のスマホの画面には「はじめまして」
の再生画面が静かに息づいていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は侑磨くん視点のお話でした。
本当はもっと岡田飯を近づけたいのですが、このお話の雰囲気を崩したくなくて、少し遠回りですがお互いが葛藤を抱えているという序章にさせていただきました。
次回から本編にうつります。
かなり長くなってしまうと思いますが、気長にお付き合い頂けますと幸いです。
また、現在話の進め方に悩んでいる最中です。
次回以降は出す頻度が落ちてしまう可能性がありますが、同じように気長に待っていただけると幸いですです












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。