第11話

#11 たとえ全てが壊れても(D)
1,307
2024/02/21 08:06 更新
マークが作ってくれたはちみつレモンを飲みながら、


やっぱ俺にはちょっと酸っぱいやって思ったり、


つーかそもそもビール飲もうとしてたのになって思ったりしたけど、


単に一緒に並んでキッチンに立ちたかっただけで、


別に横にいてくれたら、それだけで良くて。




さっき、マークが怪我した俺の指を口に含んだ時。


その迷いのなさに、


なんていうか…


この人は、


こんな俺を見境なく守ろうとしてくれるんだって思って。




結婚願望?


そんなの無いけど。


無いけどでも、


朝起きて、マークがそこに居てくれたら…


俺は脇目も振らず一目散に駆け寄って、


その長い首に両腕を絡ませて抱き締めてもらいに行くんだろうな。



それだけは、自信持って言えんのに。




マーク
マーク
うわー!すっご
ドンヒョク
ドンヒョク
味は保証済みだけど、食べて
マーク
マーク
フツー「味は保証できないけど」だろ 笑
ドンヒョク
ドンヒョク
だって美味いもん絶対
マーク
マーク
じゃ、遠慮なく


いただきまーす
ビールで乾杯した後、俺が作ったサラダとグリーンカレーを勢い良く頬張るマーク。
マーク
マーク
まじで美味いな
ドンヒョク
ドンヒョク
言ったじゃん
マーク
マーク
いや、そういう美味いじゃなくて


ほんとに美味しいって意味
ドンヒョク
ドンヒョク
何それ 笑
マーク
マーク
そっか…


やっぱお前、俺がいない間寂しくて、


グレて女に溺れて料理にもハマったんだな
ドンヒョク
ドンヒョク
は?
マーク
マーク
なんか悪いことしたな
ドンヒョク
ドンヒョク
アホらし

グレてもねーし女にハマってもないし

むしろ女がハマって来るだけだし
マーク
マーク
確かにデカいもんな、お前の
マークにそう言われ、さっきの風呂場でのことが蘇る。
ドンヒョク
ドンヒョク
アホか
マーク
マーク
にしても、このカレーまじ売れるんじゃない?


まじで美味すぎる
ドンヒョク
ドンヒョク
じゃあ3000円ね
マーク
マーク
高っ
ドンヒョク
ドンヒョク
売れるって言うから
マーク
マーク
たけーな 笑

あ、ちょい待って
マークが急に席を立ち、ソファの下に置いたリュックから財布を取り出し持って来た。
ドンヒョク
ドンヒョク
別に本気で払ってって言った訳じゃないけど
マーク
マーク
違う違う
ドンヒョク
ドンヒョク
ん?
そう言うとマークが財布の小銭入れの中から何かを取り出して、すぐに拳の中に隠した。
マーク
マーク
左手出して
そう言われ、何かくれるのかと思った俺は、手のひらを上にして左手を差し出した。
マーク
マーク
そうじゃなくて、逆
ドンヒョク
ドンヒョク
マークが俺の手を取って甲を表にし、何かを握りしめていた拳を開いた。
マーク
マーク
ほら
ドンヒョク
ドンヒョク
マーク
マーク
友情リング


これ飯代
激しい動揺を悟られないよう必死で隠す俺を前に、


嬉しそうな顔したマークが、俺の左手の人差し指にまるでプロポーズするみたいに指輪をはめる。
マーク
マーク
ほら、ピッタリだろ
ドンヒョク
ドンヒョク


こういうのって左手にすんの?
マーク
マーク
や、だって右手だと利き手だから邪魔だろ?


でも薬指じゃ結婚指輪みたいだしな
ドンヒョク
ドンヒョク
…っていうか、なんで俺だけつけるんだよ


友情リングだろ?


マークも…
マーク
マーク
はいはいはいはい
そしてマークが財布からもう一個指輪を取り出し、俺に渡した。
ドンヒョク
ドンヒョク
買ったの?自分のも
マーク
マーク
お前がそう言ってたから


一つ大きいサイズが有ったから、自分用に買った
ドンヒョク
ドンヒョク
そっか
マーク
マーク
ほら
ドンヒョク
ドンヒョク
ん?
マーク
マーク
俺にもはめてくれよ


友情、友情
そう言ってマークが左手をズイッと俺の前に差し出す。
ドンヒョク
ドンヒョク
自分ではめればいいじゃん…
照れ隠しでそう言いながら、マークの左手の人差し指に指輪をはめてやる。
マーク
マーク
おー

いいじゃん、良い、良い
ドンヒョク
ドンヒョク
ま、いいんじゃない?
マーク
マーク
二人で会う時は必ずして来いよ
ドンヒョク
ドンヒョク
もし失くしたら?
マーク
マーク
殺す
ドンヒョク
ドンヒョク



じゃあ失くさないように大事にしまっとく
マーク
マーク
おい!しまわないでちゃんと指にしろよ!


せっかくあげたんだから



夕食後、マークのおじさんのワインセラーから白ワインを出して来て、リビングでソファに座ってTVを観ながら二人で飲み始めた。


マークはいつもより機嫌が良くて馬鹿みたいにずっと笑ってて、


まるで…


まるであの日の夜みたいだなって思ってるのは、


多分俺の方だけなんだろうけど。


マーク
マーク
なあ
ドンヒョク
ドンヒョク
あ?
マーク
マーク
なんかさー
ドンヒョク
ドンヒョク
うん
マーク
マーク
なんか、これだな
ドンヒョク
ドンヒョク
何が
マーク
マーク
…俺、これが欲しかったんだな
ドンヒョク
ドンヒョク
マーク
マーク
俺、今すげーリラックスしてるじゃん
ドンヒョク
ドンヒョク
んん
マーク
マーク
なんかこの三年、こういう時間なかったなって
ドンヒョク
ドンヒョク
そうなんだ
ふと横にいるマークを見ると、酔って顔がほんのり赤くなって、何かにうっとりするみたいに目を閉じている。
マーク
マーク
これってさ
ドンヒョク
ドンヒョク
うん
マーク
マーク
場所のお陰かな
ドンヒョク
ドンヒョク
場所って、軽井沢?
マーク
マーク
それとも…


お前がいるからかな
ドンヒョク
ドンヒョク



でも、急にいなくなったじゃん自分から
ダメだ。


つい口が滑った。
マーク
マーク
え?
ドンヒョク
ドンヒョク
マーク
マーク
俺?
ドンヒョク
ドンヒョク
つーかさあ
もう言うしかないか。
ドンヒョク
ドンヒョク
あの時、


なんで急に留学決めたの
マーク
マーク
え…
ドンヒョク
ドンヒョク
マークさ


卒業して急に留学するって決めたじゃん?
マーク
マーク
まあ
ドンヒョク
ドンヒョク
普通、もっと前に決めて行くもんだろ
マーク
マーク
ドンヒョク
ドンヒョク
なんで、


急に行っちゃったの
結局聞いてしまった。


これから楽しい夏休みが始まるっていう初日に。


もうこうなったら仕方がないと、目の前のグラスに半分残った白ワインを一気に飲み干す。
マーク
マーク
いや…


なんとなく
ドンヒョク
ドンヒョク
嘘だよ


あの日、マークの卒業式の日の夜、


俺…何か言った?
マーク
マーク
え?
ドンヒョク
ドンヒョク
だからだろ?


俺が…


なんか酷いこと言ったんだよな


だからマークが
マーク
マーク
馬鹿、違うよ


お前は関係ないから
ドンヒョク
ドンヒョク
じゃあほんとに、急にあっちで勉強したくなって行ったってわけ?
マーク
マーク
…それはそうだよ
ドンヒョク
ドンヒョク
じゃあなんで、俺にちゃんと言ってくれなかった?


あんなに…


あんなに一緒に居ただろ?俺たち


何が友情リングだよ


なんで俺を…


なんで俺を捨ててったんだよ
マーク
マーク
捨ててなんか
ドンヒョク
ドンヒョク
じゃあなんで?
マーク
マーク
ドンヒョク
ドンヒョク
俺は…
マーク
マーク
ドンヒョク、聞いて
マークがソファから降り、俺の足元の床に向かい合って座った。
マーク
マーク
お前の言う通り…


確かに、俺はあの時お前から逃げた
ドンヒョク
ドンヒョク
やっぱり
マーク
マーク
でも、それはお前のせいじゃない


俺が…


俺が怖かったから
ドンヒョク
ドンヒョク
何が?
マーク
マーク



あの日の夜、


調子に乗った俺とお前が酔っ払って





お前が先に眠って
ドンヒョク
ドンヒョク
マーク
マーク
それで俺が…


引くなよ?
ドンヒョク
ドンヒョク
引かないから言って
マーク
マーク
俺が…


多分、お前のその時の寝顔が、


もしかしたら可愛かったのかもしれないけど、


なんか魔がさして俺、


…お前にキスしたんだ
ドンヒョク
ドンヒョク
え?
マーク
マーク
ごめん


で、なんかその時、


子供心に怖くなったっていうか


お前のこと、本当の弟みたいに可愛がってたし、遊んでたし、大好きだったから





だから、俺がもし、


もし、お前のことそういう目で見てるんだとしたら、


俺たちの関係が全部壊れちゃうんじゃないかって思って


でもその時は自分でも自分がやったことがよく分からなくて

マークの話に呆気に取られ、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。


この三年間自分を責め続けていたのに、


まさか、


マークが自分から逃げた理由がそれだったなんて。
マーク
マーク
ごめん、ほんとに


お前のこと失いたくなくて
ドンヒョク
ドンヒョク
つまり、


酔って俺にキスして、


自分がゲイなんじゃないかって怖くなって逃げたってこと?
マーク
マーク
そういうことじゃないけど


俺がもし、お前のことそういうふうに見てしまってたとしたら、


その先どうやって接したら良いか怖かったし、


とにかくお前に嫌われたくなかったんだよ


子供だったから、


とりあえず目の前の現実から逃げることしか考えられなくて


時間が解決してくれるんじゃないかって
ドンヒョク
ドンヒョク
なんだよそれ…


俺が…


俺がどんな気持ちでその間生きてたか





俺はマークを失って、


急に何もなくなって、


もうどうでも良くなって


めちゃくちゃだったってのに…


何なんだよ、ったく


ほんっと、勝手なヤツ
床に座ったマークが俺を見上げて、


酔って少し充血したその目が俺を捉えて離さなくて、


もう全て言ってしまった俺は、


恥ずかしくてそこから逃げてしまいたかったけど、


あの時、


マークの気持ちが俺にあったことを知って、


嬉しさと、腹立たしさと、悔しさと、


全てが混ざり合って頭の中がおかしくなりそうだった。
マーク
マーク
ごめん、ドンヒョク


ごめんな


どうして良いかわからなくて


寂しくさせてごめん


でも…


俺も結局寂しくて、こうやってお前のところに戻ってきたんだ
そう言うとマークが、


俺の両膝に手を置いた。

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