今日も踊る。
明日も、その次の日も僕達は踊り続ける。
僕達の目の前に置かれた、大きい謎のテレビに向かって。
側から見たら、僕達は変人でしかないだろう。
なぜ踊るのか
その問いには、僕はもちろんのこと、
ミクでさえ答えられなかった。
本能が感じているのだ。
踊らなければならない、と。
踊らなければ…、えっと、踊らないと…。
そういえば、踊らなければどうなるのだろう。
そろそろこの単純な踊りにも飽きてきたころだ。
試しに踊らないでいてみてもいいかもしれない。
僕のターンのときに、パタリと動きを辞めてしまえば、ミクはどんな反応をするだろうか。
きっと目をまん丸にして、
それに負けないくらい口をあんぐりと開けるだろう。
想像しただけでニヤけてしまう。
危ない危ない。
今ここでバレてしまえば元も子もない。
慎重にやらねば。
僕はドッキリを仕掛けるみたいで、とてもワクワクしていた。
そして、また踊り再開することに。
最初はミクのターン。
彼女の歌声は、どんな者とも比較できないくらい綺麗だし、きらびやかだ。
聞き入ってしまい、思わずドッキリのことを忘れるところだった。
そして僕のターン。
最初の方の踊りを踊りつつ、目の前のテレビを睨みつける。
そしてついに、僕は動きを止めてしまった。
…そう思ってたのに、なぜか僕の体は止まらない。
次のミクのターンになっても動き続けている。
ミクに止めて欲しかったが、うまく声が出せない。
自分でさえ、僕が何を言っているのか分からなかった。
ミクは踊りつつも、怯えた顔をし、震えている。
違う。こういうのが見たかったんじゃない。
唖然としたあと、いつものノリで、笑って欲しかったんだ。
やっと音楽が最後のイントロを終え、空間がシンとする。
それと同時に、僕は膝から崩れ落ちた。
酸素が一気に肺に入ってきた。
まるで今の今まで、息を止めていたかのように。
警戒しつつも、僕に手を差し伸べてくれるミク。
その手を掴み、僕は立ち上がった。
踊らなければどうなるのか興味を持ったこと。
試しに踊らないでみようとしたこと。
急に自由がきかなくなり、踊るのが止まらなくなったこと。
ミクに助けを求めようとしても、上手く言葉を発せなかったこと。
それを順番に話していく。
ミクは合間に頷くだけで、黙って話を聞いていた。
気まずくなり、目線を逸らしてしまった。
すると、ミクが顔を上げる。
ミクのことだ。
笑って許し、もう一度踊ろうって誘うことだろう。
でもミクは、僕の予想とは違った反応をした。
ミクは目頭に涙を溜めていた。
僕がこのまま、どこかに居なくなってしまいそうで怖かったんだそう。
ミクは完全に泣いてしまった。
罪悪感が押し寄せ、おろおろとする。
泣かせてしまった犯人が、ミクに対してどうすることもできなかった。
この時ミクにかけるべき言葉は、山ほどあっただろう。
でも、僕は動揺しすぎて言葉が見つからなかった。
あんなこと、しなければよかったと心から反省している。
次第にミクの感情も収まっていった。
今ではもう完全に元気になり、
小鳥達と歌を歌っている。
だからといって、いつも通りには接しがたい。
僕は離れたところで、休憩を取っていた。
ピロン。
短い着信音が鳴った。
僕のスマホだろうか。
画面を開くと、非通知からとあるメールが送られていた。
反射的にそれを開いてしまい、
ウイルスに感染するやつかもしれないと、後から心配になり、
身構えていると、
別に架空請求でもなんでもなく、ただのYouTubeの動画の宣伝みたいだ。
現実逃避に最適!!
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少し期待したのが馬鹿らしく思え、
立ち上がり伸びをする。
気が緩むとすぐに口角が上がってしまうほど、
僕の心は何故かウキウキしていた。
さっきほどまでの後悔はどこかに飛んで行ってしまったみたい。
今ならなんでもできる気がする。
またもや何処からか、音楽が流れ始める。
それに合わせて、ミクが踊りはじめた。
早く、早く僕のターンになって!
踊りたい!踊りたい!!
早く!!早く!!!
そして待ちに待った僕のターン。
僕は今までにないくらい精一杯踊った。
ミクの踊りに負けないくらい。
嗚呼、音楽が止まってしまった。
まだまだ踊っていたいのに。
ずっと突っ立っているだけなのが我慢ならず、
今にでも動きたい気分だ。
ミクが何かを言おうとしていたが、
そんなのはフル無視で僕は走り出す。
今まで運動嫌いだったはずなのに、
走るのが楽しい。
軽い風が僕の髪をなびかせる。
小鳥のさえずりが心地よい。
快感。ただそれだけだった。
走るのってこんなにもいいものだったんだ!
全てが素晴らしく思える。
これらは全て、あの動画のおかげなのかな?
そうだったら心の底から感謝をしないと!
今度ミクにも見せてあげよう!!
そんなこんなで僕は走り続けていたが、
今まで踊り以外の運動をしてこなかった。
が故に、僕のは突然に倒れてしまった。
意識が朦朧とする中、ミクが駆け寄ってくるのが見える。
嗚呼、また心配かけちゃうな。
そんなことを考えながら、僕は意識を手放した。
後編に続く。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。