第8話

JO
294
2026/01/22 12:26 更新


その日の夜はいつもより寒かった。

「今日暖かくない?」
「たしかに夜まで暖かいな」

それは自分だけだった。
でも、少し熱い気がする身体を誤魔化すには、
暖かい方がむしろ良い。

いつもより早く、静かに部屋のドアを閉めた。
薄手のパーカーを羽織る。
それでもまだ少し寒かったが、
もう動く気力は無かった。

「…けほっ、」

喉が痛いのも、咳が出るのも
きっと、乾燥してるだけ。

パーカーの袖口で咳を抑え込んだ。

明日にはなんともなくなってるはず。

そう信じて、目をつぶった。

「…ゴホッ、」

さっきより湿った咳で目が覚める。
咳き込む度に響く奥から抉るような音が、
喉の痛みを助長した。

もう時間は分からない。
時計を見る余裕すらなかった。

身体の節々が痛くて、
寝返りを打つのも億劫だった。

でも、測らなきゃ大丈夫。

「…あなた、?」

小さなノックの音と名前を呼ぶ声が
扉の向こうから聞こえる。

声がいつもより低くて、
それだけでバレた気がした。

「…じょう、」

不安に襲われた身体は反射的に名前を呼んだ。

迷惑を掛けたくない。

頭ではそう思っているのに、身体は正直だった。

「入るよ」

そっとドアを開けて入ってきたJOは
右手にスポーツドリンク、左手には冷却シートと体温計を持っていた。

「…バレてた?笑」
「うん、これ、ちょっと飲める?」
「ごめん、ありがと、」
「無理しなくていいから。」

一口だけ、ゆっくり飲み込む。喉が少しひりつく。
でも、乾ききっていた喉は少しだけ楽になった。

「まだ寒い?」
「ちょっと、」
「毛布、1枚足そっか。」

優しく毛布が掛けられると、
少しだけ、寒さが和らいだ気がした。

「…熱、測ってないでしょ」
「なんでわかるの…」
「あなた、熱あっても、数字見なきゃいいと思ってそうだから。」
「じょうだって。」

「俺も、たしかに人のこと言えない。」
「だから、どれだけしんどいか分かる。」

その言葉はどんな優しい言葉より説得力があった。

「明日、まだしんどかったらちゃんと休も。」
「…わかった。」
「今は俺いる。寝なくてもいいから、ちゃんと休んで。」

JOの声で少しずつ眠りに落ちていく。

「…じょー、?」

次に目が覚めた時には
隣の体温が消えかかっていた。

無意識にベッドから降りて部屋を出た。
身体は重い。力が入らなくてふらつく。

キッチンに見えた背中に思わずしがみつく。

「わ、あなた…?どうしたの?」
「一人、嫌だった…」
「ごめん、飲み物取りに行ってただけだよ」
「もうどこも行かない?」
「行かない。だから部屋戻ろっか。」
「…分かった、」

「いなくならないように手繋いでおく。」
「なら寝れそう…」
「今日くらい安心して寝てね。」

直接触れた体温は
あなたの不安をゆっくりと小さくした。

指先に残る温度を逃さないように、
そのまま眠りに落ちていった。

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