拒食症
軽い嘔吐表現があります
"あなた、太った?"
SNSでたまたま見たその一言からだった。
私、太ってるんだ。
それからはSNSを見ても、体型についての声ばかり気にしてしまう。
食べた後に、罪悪感を覚えるようになった。
初めは、食べたら運動すればいい。
そう思って、ジムに行ったり走ったりした。
これで食べた分消費できてる?
痩せた感覚がなくて、食べる量を減らした。
「あなた、最近ちゃんと食べてる?」
その日の運動に出かける前、Kくんに聞かれて、心臓が速くなる。
Kくんは優しいけど、その中に全てを見抜くような鋭さがある。
Kくんにはバレたくない。
「大丈夫。」
食べてる、とは言えなくて曖昧に誤魔化した。
気づけば、ほとんど何も食べなくなっていた。
そして、
もし食べたら、出せばいい。
周りに心配されたくなくて、みんなといる時は少し食べた。
その後は、全てリセットした。
最初は今日だけ、そう思っていた。
でも、そんな心の余裕はいつしか消え去っていた。
いつの間にか苦しいのにやめられなくなっていた。
「何やってんだろ、笑」
生理的な涙を拭いながら思わず自嘲した。
何事も無かったかのようにリビングに戻るとゲームをするFUMAくんがいた。
ふと、画面から目を離してあなたのことをじっと見つめた。
「あなた、疲れてるでしょ」
「え、?あ、うん、?」
「無理しなくていいからね」
きっと無理するな、それだけを伝えたかったんだ。
そんな気がした。
ふうまくんにバレてませんように。
それだけを祈った。
─
KとFUMAは違和感を覚えてからずっと後ろからあなたを見ていた。
「Kヒョン、あなたのこと気になりますか?」
「ふうまも気づいてたか」
「はい、ここ数日気になってて」
「明らかにおかしい」
「今は2人で監視しときましょう」
「…だな」
2人はどこか胸騒ぎがしていた。
─
その日もいつも通り、
みんなの前ではちゃんと食べた。
でも、数十分もしないうちにトイレに入る。
「…っ、」
音もなく戻す最中だった。
背中に温もりを感じる。
そういえば、鍵をかけるのを忘れていた気がする。
誰かはすぐに分かった。
「…Kくん、」
Kに言葉は無かった。
でも、背中をさする手には、
優しさ以外の感情も含まれている気がした。
そのまま、何も言わずにリビングまで連れられる。
リビングではあなたを待っていたと言わんばかりにFUMAが座っていた。
「ごめんね、あんなとこみせて」
沈黙の気まずさに耐えられずにわざと明るく言ってみるが、KとFUMAは口を開かない。
思わず逃げ出したくなった。
「…今日、疲れちゃったから寝てもいい?」
「"今日"だけじゃないだろ」
Kの声はいつもより低かった。
「あなた、嘘つくの、やめない?」
優しいけど逃がさない。
そんなFUMAの言葉に心臓は一気に煩くなった。
「今、ここで逃げたらもうあなたのこと助けられなくなる。」
Kの顔は本気だった。
この2人はきっと、前から知ってたんだ。
ずっと見守ってくれてたのに。
それが、嬉しくて、でも申し訳なくて。
自分が泣いちゃダメなのに。
涙を堪えることは出来なかった。
限界はとっくに超えていた。
もう2人に頼るしか無かった。
「もう、やめてもいい、?」
「今日だけ、って思ってたのに、気づいたら止まれなくて、」
「言われたこと、思い出すと、食べるの怖くて、」
「私だって、こんなことしたくなかった、」
「でも、私が弱いから、」
震えて、掠れた声はあまりにも悲痛だった。
聞いているだけで2人の心臓は、誰かに強く掴まれたみたいだった。
Kは涙が流れないように、天を仰いだ。
FUMAはそっと拳を握る。
「…全部、やめていい。何も見るな。
あなたはもう頑張った。
俺たちが見てた。もう大丈夫だから。」
我慢できず、Kがあなたを強く抱きしめる。
その強さはまるであなたがそこにいることを、確かめるようだった。
「あなたは弱くない。
全部話してくれたのは、強さだよ。」
FUMAが優しく笑う。
「ごめん、ごめんね…」
優しくされればされるほど、また涙が溢れた。
「あなた、一口でいいから食べてみない?」
「これおいしいよ!」
「無理せんでいいから」
「食べれた?えらいね」
周りの言葉は優しかった。
「ふうまくん、今日ダメかも」
「Kくん、助けて」
あなたも2人に頼ることを覚えた。
ダメな日は隣でそっと背中をさすってくれる。
ひとつでも出来れば、毎回褒めてくれる。
「みんな、いつもありがとう…」
気づけばSNSの言葉に左右されることも、一人で抱え込むことも減った。
もちろん、完全ではない。
でも、もう大丈夫だった。
頼ることは悪いことじゃない。
2人の温かさがそう教えてくれたから。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。