第7話

花屋と地下アイドル
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2025/07/27 10:40 更新
アモン
アモン
はじめましてでいきなり申し訳ないんすけど、ラムリの代理っす。今日のチェキ衣装を撮ってきてほしいって頼まれて……ただシステムがよく分からないんすよね。ラムリから10万渡されたんで、とりあえず1万分のチケットは買ってきたんすけど……
 言いながらパーテーションの中に入ってきたのは、ピアスがバチバチと派手な男性だった。
マリア
マリア
アナタ、ラムリの友達なの?
アモン
アモン
はい。アモンっていいます
マリア
マリア
そうなの。それならライブの間退屈だったでしょ
アモン
アモン
いやいや!
凄かったっすよ、一人でステージであんな歌えるものなんすね!
 アモンはそう世辞句を述べる。ペラペラと出てくるその言葉に、相当な世渡り上手だなと察した。

 マリアはチェキを5枚撮って、それからずっと使ってなかったサインペンを取り出す。
アモン
アモン
何してるんすか?
マリア
マリア
ラムリにメッセ書いてる。
本当はメッセ書くのもポイント制なんだけどね
アモン
アモン
あらら……いいんすか?
そういうことしちゃって
マリア
マリア
よくないね
マリア
マリア
……でも、アナタとアタシとラムリだけの秘密なら、赦されるのよ
 そう言って笑ったマリアに、アモンが僅かにたじろいだ。
アモン
アモン
……いつの間にか秘密仲間にされてる?
マリア
マリア
今更気付いても遅いのであーる
【ラムリ お仕事ぶっとばせ☆彡.。】

 マリアはチェキにそう書き込んで、アモンに渡す。
アモン
アモン
……にしても、アイドルなのにああいう歌も歌うんすね
 ふと、チェキを眺めていたアモンが口を開いた。
マリア
マリア
『ああいう歌?』
アモン
アモン
曲名分からないけど、母親に許してくれますかって訊いてる曲。あれ、なんか被虐待児の歌っぽくて、あんまり明るい歌じゃないって言うか……アイドルが歌うのは意外っていうか
マリア
マリア
あぁ、まぁそうね
アモン
アモン
すっごい感情入ってたし……
マリア
マリア
アタシ自身が被虐待児だからねぇ。
今でも思ってるよ。
『ママ、赦して』って
 マリアはそれだけ言うと、スタッフがチェキ終了の合図を出したので彼をパーテーションの向こうに返す。
マリア
マリア
……驚いた。戻ってくると思わなかった
アモン
アモン
言っていいんすか? そういうこと……
被虐待児だった、とか……
マリア
マリア
アナタが内緒にしてくれれば誰も知らない。ラムリも知らない。
だからこの事実は無い
マリア
マリア
……でも少し、誰かに知って欲しかった
マリア
マリア
ママの事を、今でも愛してる。歪んでるって友達は言う。間違ってるとも。
それでも愛してしまったのだから、もう仕方無いじゃない
マリア
マリア
だから、母親恋しくなった時にセトリにあの曲を入れる。今は、もうアタシしかいないから
アモン
アモン
……
 アモンはただ黙ってマリアの話を聴いていた。マリアはアモンに微笑む。
マリア
マリア
折角だし、一枚一緒に撮る?
秘密を抱えた仲間なんだし
アモン
アモン
……
マリア
マリア
あ、でもラムリのお金か。
ごめん、忘れて
アモン
アモン
……いや……
アモン
アモン
……一枚、いいっすか……?
ラムリには、ちゃんと金払うんで……
マリア
マリア
いいよ。どんなポーズにする?
アモン
アモン
……
 アモンが、俯く。マリアはそんなアモンを優しく抱きしめた。

 パシャリと、チェキが撮られる。
マリア
マリア
内緒にしてね、さっきの話。
アナタのこと、信じてるよアモン
アモン
アモン
……
 アモンは時間になったため、無言でパーテーションの奥に出て行った。多分彼はもう来ないだろうなぁと思いつつ、マリアは少し憂鬱な気持ちになる。

 被虐待児だったことを話したことは後悔していない。しかし少しだけ、アモンに余計なものを背負わせてしまったことを申し訳なく思ったのだった。

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