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第1話

誕生、そして
162
2024/05/12 12:01





ズズ、と崖から透明な鉱物が現れる


先生との勉強を抜け出した生まれてまだ1年ほどのフォスフォフィライトは、不思議そうにその様子を眺めた


透明な『それ』は少しずつ崖から頭を出し、腕を出し、胴体を出し、そして__崖の下に落下した



フォスフォフィライト
わっ…
あなた
……




緒の浜どさりと落ちた『それ』は、透明ながら光に反射して7色に光り輝いていた。そして何より、『それ』には膝から下の宝石が無かった。


フォスは先生との勉強を思い出した。自分達のように自立して動く宝石は稀で、ほとんどは生まれても動けずに終わってしまうことを。



フォスフォフィライト
…おーい、動けないの?
あなた
ぅ、あ…?
フォスフォフィライト
っ!動けるの?すごいね!




『それ』は白粉を塗っていないため、キラキラと輝いたままの顔をフォスに向け、7色に輝く腕を少し持ち上げた



ジルコン
フォスー!居ないのかー!
ダイヤモンド
フォースー!
イエローダイヤモンド
今なら先生も怒らないぞー!




遠くから宝石達の声がする。いつも見回りをしている宝石達が、いなくなったフォスを探しに来たのだ


フォスは自分が先生との勉強を抜け出してきたことを思い出した



フォスフォフィライト
どーしよ…怒られちゃう
フォスフォフィライト
でも君は先生に会わないとだよね…うぅん…
あなた
……?
フォスフォフィライト
よし、僕が怒られないように協力してね!




そんなことを言われても生まれたばかりの『それ』はフォスの言葉を理解できないのだが、フォスはそこまで考えていなかった



フォスフォフィライト
みーんなー!!僕はここだよー!!
アメシスト84・アメシスト33
あーフォスいた
ダイヤモンド
ほんとだ、フォスー!




そうして、見つかったフォスに宝石達はほっとしたが、そのすぐ横に7色に輝く足がない宝石を見て驚愕した。


そしてそれは唯一手袋をしていた瞬足のイエローによってすぐさま金剛先生の元に運ばれる



イエローダイヤモンド
先生!お、緒の浜で見つけました
でも足がなくて、あと透明なのにすごくカラフルです
金剛先生
……ルチルに白粉を持ってくるように頼んでくれるか
イエローダイヤモンド
はい!




先生は『それ』をそっと布でくるむと、部屋に運ぶ。


そして部屋の台にそうっと乗せると、工具を取りだし、少しずつ台の上に乗せた『それ』の顔を削る。それは硬度や色の違いがある宝石に、見た目だけは違いが出ないようにという金剛の優しさだった



ルチル
すいません遅くなりました…
それで、新しい宝石というのは
金剛先生
この子だ
ルチル
これは……足が、ありませんね
金剛先生
あぁ…また何か付けるものを探そう。今は白粉を塗ってくれるか
ルチル
はい、わかりました




ルチルはボウルに入った白粉をそっと筆に乗せ、顔から順にポンポンと肌となる部分に塗っていく


白粉を塗ると、段々と7色の光が閉ざされていく。やがてその輝きは髪と瞳だけに残り、他の部分は白くなった



金剛先生
……君の名前は、




キラキラと輝く瞳を見つめながら金剛は思案する。この7色に輝く鉱物に宿った、この宝石の名前を。



金剛先生
『あなた』だ




その日からその宝石は、あなたと呼ばれるようになった。









--------キリトリ線--------









名前 : あなた ( ウォーターオパール )

硬度 : 六半

年齢 : 299歳

備考 : 生まれつき足がない




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