ズズ、と崖から透明な鉱物が現れる
先生との勉強を抜け出した生まれてまだ1年ほどのフォスフォフィライトは、不思議そうにその様子を眺めた
透明な『それ』は少しずつ崖から頭を出し、腕を出し、胴体を出し、そして__崖の下に落下した
緒の浜どさりと落ちた『それ』は、透明ながら光に反射して7色に光り輝いていた。そして何より、『それ』には膝から下の宝石が無かった。
フォスは先生との勉強を思い出した。自分達のように自立して動く宝石は稀で、ほとんどは生まれても動けずに終わってしまうことを。
『それ』は白粉を塗っていないため、キラキラと輝いたままの顔をフォスに向け、7色に輝く腕を少し持ち上げた
遠くから宝石達の声がする。いつも見回りをしている宝石達が、いなくなったフォスを探しに来たのだ
フォスは自分が先生との勉強を抜け出してきたことを思い出した
そんなことを言われても生まれたばかりの『それ』はフォスの言葉を理解できないのだが、フォスはそこまで考えていなかった
そうして、見つかったフォスに宝石達はほっとしたが、そのすぐ横に7色に輝く足がない宝石を見て驚愕した。
そしてそれは唯一手袋をしていた瞬足のイエローによってすぐさま金剛先生の元に運ばれる
先生は『それ』をそっと布でくるむと、部屋に運ぶ。
そして部屋の台にそうっと乗せると、工具を取りだし、少しずつ台の上に乗せた『それ』の顔を削る。それは硬度や色の違いがある宝石に、見た目だけは違いが出ないようにという金剛の優しさだった
ルチルはボウルに入った白粉をそっと筆に乗せ、顔から順にポンポンと肌となる部分に塗っていく
白粉を塗ると、段々と7色の光が閉ざされていく。やがてその輝きは髪と瞳だけに残り、他の部分は白くなった
キラキラと輝く瞳を見つめながら金剛は思案する。この7色に輝く鉱物に宿った、この宝石の名前を。
その日からその宝石は、あなたと呼ばれるようになった。
--------キリトリ線--------
名前 : あなた ( ウォーターオパール )
硬度 : 六半
年齢 : 299歳
備考 : 生まれつき足がない
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!