今はもう、使われていない線路沿いを歩く。
寂れて、誰も思い出さなくなったこの線路にも、かつては電車が走ったのだろうか。
ボロボロの空き家を見つける。
この島にこんな町があったなんて。
地図にすら載らない、忘れ去られた、必要とされてない町。
恐る恐る、空き家のドアを押すと、なんの抵抗もなく開いた。かつて使われていた家具が、壊れたまま、置きっぱなしになっている。
この家の住人は、今、一体どこにいるのだろう。何をしているのだろう。
あさを隠れ家まで連れていくと、思っていたより喜んでくれた。
心からの笑顔が嬉しくて、私も釣られて笑顔になる。
足元を見ると、白いハンカチのようなものが落ちていた。
拾い上げ、軽く埃を落とす。
それをそっと、あさの髪に被せる。
ハンカチをベールのようにめくって、再び口付けをする。
あさの服はボロボロだったけど、なんの飾りも着いていない純白で、本物のドレスみたいだった。
ああ、このまま時間が止まってしまえばいい。
このまま私たちのことを誰も彼も忘れてしまえばいい。
私たちだけが覚えていれば、それでいい。
だからお願い、誰かこのまま、時を止めて。
しばらくすると、あさは心地良さそうな寝息をたてはじめた。
その無垢な寝顔が、まるで、何も知らない天使のようで、ずっとそのまま、安心して眠っていて欲しいと思った。なんにも気にせず、気負わず。
三度目の口付けをして、私も瞼を閉じる。
一生、このままでいられるような気がした。
このまま、見つからないような気がした。
なんにも気にせず、全てをなかったことにして。
二人だけの世界で。
本当に、この日のまま時間が止まればよかったのにね。
もう一度、この頃に戻れるのなら、私は、この瞬間を選ぶと思う。
この日、私は心から幸せだったよ。
幼かった私の心を、救ってくれてありがとう。
生きることも、死ぬことも、まだ少し怖いけれど。
あなたのおかげで、私は愛することを知りました。
この頃はまだ、この気持ちの名前を知らなかったけど、
あなたは間違いなく、私が一番最初に愛した人です。
ねぇ、ヨル。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。