出てきたのはさっきの女性とは少し顔が違う好青年だった。
ドアの隙間からは荒れた家内と鼻にこびり着く悪臭が漂ってくる。
それだけでも不快ではあるが、よく見ると本人の伏見さんの腕や足、動く度に服が動いてチラチラと見える鎖骨あたりにかけて幾つものアザが着いていた。

親から子への虐待跡
青アザは言わずもがな、火傷跡…彼の服からタバコの匂いが微かにする。恐らくタバコの根性焼きの跡のようなものだろう

剣持さんは気づいていないが
時々顔を歪ませている様に見える。

火傷跡が掠れて痛いのだろう。
少し……少し、ほんの少しだけ、私の中で加虐心が疼いた

急に動き出した私に驚いたのか
前後の彼らの驚いた顔と後ろから聞こえる静止の声が聞こえた。

ガシッと腕を掴み一瞬だけ抵抗出来ないようにする。その瞬間も彼は少し顔を歪めた。
腕の動きを封じながら腹の服を捲る。
服の下は火傷跡、多数の切り傷、青アザ……
典型的な虐待跡。

当の本人を見るとバレたと言わんばかりに顔を青ざめさせている。
剣持さんもこの状況はわかっていながらここまで酷いと思わなかったのか、目を見開いて固まった儘。

分かりきった答えを聞く。

Fクラスでは誰も話を聞かない。
同学年はもちろん、教師だって門前払いするだろう。

かと言って生徒会にも相談できない。
彼は剣持さんと一緒にFクラスへ落とされた。
他でもない、桃瀬愛菜（生徒会長）によって。

ポソッと呟かれたその言葉を無視して
彼の返答を待つ。

止めどなく、糸が切れたように彼の目から涙が溢れてくる。

こういう所で「正義感が強いゲームの主人公」や
「心がヤサシイヒト」なら

「大丈夫。辛かったね」
「よく頑張った」

なんて言うのかもしれない。

“　そういう事を言える人　”を羨ましいと思ったことは無いが
なんの考えもなしに
優しさだけで言える人は凄いと思う。

私は、そんな言葉をかけられないから

目の前で泣かれても

熱い友情を見せられても

出てくる感情は

「コレをどう利用するか」
それだけだった

人が泣いても、私には関係ない。





ただ





彼が使えるなら


彼が、もし、私に助けを求めるのなら

この環境から抜け出すために救いを求めるなら

喜んで手を差し伸べてあげよう