第17話

最終話 その秘密、有効期限は
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2023/12/24 18:03
いつも通りに、前みたいに戻るだけの話だった。
もういっそ、話せなくなる覚悟だってしていた。
マリア
マリア
結莉、おはよう
ユリ
ユリ
おはよう、真理愛
文化祭から三日経って、私の心はようやく落ち着きを取り戻していた。
軽度の風邪を引いてしまったこともあって、やっと万全な状態っで学校に来ることができた。
ユリ
ユリ
(……うん、いつも通りだ)
文化祭特有の雰囲気というか、ムードもすっかりなくなっていて。
日常が戻って来たかのような、ぽっかりひとつ穴を開けてしまったかのような、そんな感じ。
◇◇◇
文化祭二日目、無事に劇は終わって後夜祭まで滞りなく終了した。
私も通常運転とまではとてもいかないけれど、ちゃんと片付けが出来てたことはなんとなくでも覚えている。
マリア
マリア
……結莉
ユリ
ユリ
……真理愛ぁ、
すべてが終わって、私と真理愛の家から近い公園。
私は彼女にすべてを話していた。
考えていたことも、何があったのかも、全部。
そして、気が済むまで泣いた。
◇◇◇
後から聞けば、真理愛は大体は察していたらしい。
私から無理に聞き出そうとは思ってなかったらしく、相談されたらたっぷり甘やかそうと決めていたんだそう。
ユリ
ユリ
(真理愛には今度、甘いものでも買っていかなきゃ……)
とはいえ、先生から完全に逃げられるわけもなく。
吹っ切れるのには時間がかかるかもしれないけど、担任の先生との距離として接していけたらいいなとは思っている。
だからこそ、どうしたらいいのかわからなかった。
アザミ
アザミ
――ホームルームは以上です
あと桜庭は放課後、課題の話があるので数学準備室まで来るように
ユリ
ユリ
えっ、
アザミ
アザミ
日直、号令
先生がそう言うとすぐにかかる号令。
私は理解する間もなく、先生が教室から出て行くのを眺めるしかなかった。
◇◇◇
そして、やって来てしまった放課後。
私は放課後の掃除が終わってから、頭を抱えそうになっていた。
マリア
マリア
……私は正直、あんなヤツのところ行かなくていいとは思うけど……
ユリ
ユリ
課題、って言われちゃったし……
マリア
マリア
特に難しいことは無いはずなんだけど……
物が無いと、課題は出来ないものね……
真理愛とはギリギリまで作戦会議をしていたけど、彼女が習い事がある関係上先に帰ってしまった。
掃除も想定より早く終わってしまった。
ユリ
ユリ
(……課題は正直、大事、だけど……)
それよりも、だ。
先生とこの前の今日で、普通に話せるかと言われたらNOに近い。
ユリ
ユリ
……いいや、帰ろう
一回くらいの課題なら、そう思って一瞬罪悪感に駆られる。
ユリ
ユリ
(……先生に感化されて、頑張ったもんなぁ)
けど、だ。
課題が大事なことはわかっていても、先生と二人きりになることを考えたら避けたくも思うわけで。
いや、もしかしたら柴田先生がいるかもしれないけど……
ユリ
ユリ
(……もう、仕方ない)
私はそのままリュックを背負って、教室を後にする。
そうだ、この前自動販売機に美味しいタイプのフルーツジュースが入ってたって、誰か言ってたよね。

そうして帰る前に、自動販売機に寄った時だった。
シュウセイ
シュウセイ
……桜庭?
声をかけたのは秋晴くんだった。
キョトンとこちらを見ていたと思えば、ハッとする。
シュウセイ
シュウセイ
桜庭、喜連川先生に呼ばれてなかったか……?
ユリ
ユリ
え、どうして?
シュウセイ
シュウセイ
ついさっき、桜庭の場所知らないか聞かれたんだ
スマホに連絡も入れたんだが……
そう言われて、私はスマホを探すも取り出せずにいて。今度はこちらがハッとしてしまう。
ユリ
ユリ
(スマホ、教室に置いてきちゃった……)
流石にそのままで帰る訳にもいかない。
教室まで取りに戻ることにした。

秋晴くんにはお礼だけ伝えると、少し悩んだ様子を見せてから言った。
シュウセイ
シュウセイ
……喜連川先生、話したいことがあるようだった
ユリ
ユリ
ッ……そっか、
シュウセイ
シュウセイ
無理に話す必要は、無いと思う
だが、本気で焦っているようだったから……、悪いことは無いはずだ
言葉が詰まってしまう私に、フォローを入れてくれる秋晴くん。
秋晴くんには伝えていた訳じゃない、けど、全部わかってるような口ぶりだ。
ユリ
ユリ
……ありがとう、秋晴くん
会えたら、話してみる
私がそう言うと、秋晴くんは少し笑って頷いた。
ユリ
ユリ
……あ、良かった、あった
恐る恐る教室に戻ったが、先生の姿は無かった。
少しホッとしつつも、呼び出しを無視する行為に、今も待たせてしまっているのかと思うと少し心が痛む。
でもその痛みが本当に罪悪感あるなのか、先生と話すことで距離が出来てることを実感したくない怖さなのかは、判別がつかなかった。
ユリ
ユリ
…………帰る、しかない
半分自分に言い聞かせるように呟いて、教室を出た時だった。
アザミ
アザミ
──僕、帰るなって言ったよね
ユリ
ユリ
!!
バッと横を見ると、立っていたのは声の通りの人物だった。
驚いたけど、遭遇すること自体想定しなかった訳じゃない。
ユリ
ユリ
……課題、今回は諦めようとしてたので……
自分で言ってて、少し虚しく思えてくる。
ユリ
ユリ
(そんなこと、言いたいんじゃないのに)
ユリ
ユリ
なので、用は無いって、ことで……
大丈夫です
私の言葉に、先生は大きなため息を一つ吐いた。
アザミ
アザミ
……そんなの、はいそうですかってなるわけないでしょ
そう言った先生は、バッと私の腕を掴んでいた。
私は驚いて手を振りほどこうとしたけれど、思ったよりも力が強くてできなかった。
ユリ
ユリ
ッ先生、こんなの誰かに見られたら……!
アザミ
アザミ
誰もいないよ
いいから黙ってついてきて
ユリ
ユリ
…………はい
先生にそう言われた私はだんだん抵抗する力を抜いていく。
先生もそれが分かると、何も言わなくなっていた。
『数学準備室』
私の腕を掴んで、部屋に入れる。
ガラガラと閉じられた部屋には先生によって鍵がかけられた。
ユリ
ユリ
……流石に逃げませんって
アザミ
アザミ
まぁ、一応ね
邪魔も入ったら嫌だし
そう言った先生は、私の手を取って先生の机へと誘った。
先生は座って、私はその目の前に立つ。
ユリ
ユリ
(……何、言われるんだろ)
改めて振られるんだろうか。
少し怖い、と思いつつ、次の言葉を待った。
アザミ
アザミ
……桜庭さ、覚悟ある?
ユリ
ユリ
……はい?
覚悟? 一体何のことだろうか。
頭にクエスチョンマークをいっぱい付けていれば、先生は付け足すように言った。
アザミ
アザミ
秘密でいる、覚悟
ユリ
ユリ
…………秘密?
なんの秘密だろう、と思ってすぐピンと来たのは文化祭でのあの出来事。
一瞬で意識は唇に集中して、顔に体温が集まるのが分かった。
ユリ
ユリ
(……つまり、言いふらさないかってこと……?)
なにそれ、それだけのために私、呼び出されたの?
ユリ
ユリ
(そんなの、あんまりだよ)
ユリ
ユリ
馬鹿に、しないでください
そんなの先生に言われなくたって、言いふらしたりしません
アザミ
アザミ
……そう
ま、バレたら大問題だからね
ユリ
ユリ
そ、うですね……
あまりにもあっけらかんに言い放つ先生。
アザミ
アザミ
……そんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ
ユリ
ユリ
ッ!!
ボソッと呟かれた声に、ズキリと心が痛くなった。
ユリ
ユリ
(ああ、そっか、)
先生にとっては、本当にただの気の迷いだったんだ。
それを、私は勝手に特別だって思って……
ユリ
ユリ
……バカみたい
アザミ
アザミ
……桜庭?
ユリ
ユリ
先生、私、誰にも言いません
アザミ
アザミ
? うん、別に二回言わなくても……
ユリ
ユリ
特別になれたって、私、自惚れてました
そんなの、先生に向けちゃダメな感情なのに
教育実習生の人と、おんなじだ。
ただ違うのは、先生からの拒絶の言葉だけは聞きたくない、臆病者だってこと。
ユリ
ユリ
勘違いでご迷惑、かけてしまってすみませんでした
…………失礼します。
先生に言葉を返させる暇も与えず、私は振り返って扉に急ぐ。
これで、最後なんだと思った。

私の手が部屋のカギに触れそうになった時だった。
グイッ
ユリ
ユリ
!!
アザミ
アザミ
…………あー、
なんでそんなに険悪ムードで返事されたんだ、
って思ってたけど……
私の左手は大きく後ろに引かれ、上半身は大きな腕一つに掬われ、抱き寄せられていた。
ブワッと今までで一番近くに香る匂いにもう、訳が分からない。
ユリ
ユリ
は、離してくださ……!
アザミ
アザミ
誰が、迷惑だって言った?
ユリ
ユリ
ッ、
アザミ
アザミ
僕、覚悟あるかって聞いたじゃん
ユリ
ユリ
え、それは……
本性のこととか、き、ききき、……放送室のこと、とか……、
箇条書きみたいに、呟く。
すると後ろにいた先生は、耳元で大きな溜息を一つついた。
ユリ
ユリ
せ、先生……!!
ずるずるとそのまま後ろへと引きずられる。
足がもつれそうになりながら、一緒になって引っ張られる。
先生が椅子に座ったと思うと、私はその膝の上にすっぽり収まってた。
アザミ
アザミ
道理で話嚙み合わないなって思ったよ
……まったく、こっちの方が馬鹿にするなって話
ユリ
ユリ
え……?
アザミ
アザミ
僕のこと、知りたいんじゃなかったの
私は一瞬硬直するけど、なんとなく先生の顔が見たくなった。
少しだけ振り返ると、先生と目が、合う。
アザミ
アザミ
知りたいと思ってんなら、
もっと近くにいなよ
ユリ
ユリ
!!
アザミ
アザミ
簡単に、離れないでよ
そう言った先生の声は、どこか子供が拗ねた時に出すものに似ていた。
今までに聞いたことが無い縋るような声に、どうしてだとか、勝手なことに怒りだとか、一気に冷めていくのが分かった。
ユリ
ユリ
……秘密って、墓場まで持って行けばいいんですか
アザミ
アザミ
……結構桜庭、熱烈だね
ユリ
ユリ
熱烈……?
アザミ
アザミ
いや、なんでもない
……そうだなぁ、その秘密の有効期限は――……、

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