低くて、優しい声。
私が求めていた、そんな声。
目をゆっくりと開く。彼の優しそうな顔を想像して。
眼の前の瑞希がぐらりと揺れる。
気付けば、無意識に。心の中でそう言い訳してしまう程、その時の私の感情を理解することは出来ない。
私は立ち上がって、私よりも低い背を見下ろす
瑞希をどんと突き飛ばして、私はそう叫んだ。言葉に出来ない罵詈雑言を投げつけ、私は瑞希の胸倉をつかむ
瑞希の伸びかけの髪を掴んで引っ張る。
瑞希の腹部を蹴ろうと足を振り上げた時だった
今度こそ、私の大好きな声がした。
ふり返ると、そこには彼が居た。
彼の顔を見ると、彼の顔は酷く歪んでいた。
私はその瞬間現実に引き戻され。
眼の前の瑞希は、少し驚いたような、そんな顔をしているだけだった。
握りしめていた手を開くとパラパラとピンク色の髪の毛が落ちていく。
何、やってるんだろう。
やられる辛さを知ってるのに、何も関係ない人を殴って。
ボロボロと涙が溢れる。
類が差し出した手を、瑞希は受け取らずに立ち上がった。
…数年前の私は、一体どうだっただろう。
差し出された手を当たり前のように取って、依存して。
類がポツリと呟く。
そういって瑞希は笑った
私とは違って綺麗な笑顔だった。
私は、物語の主人公なんかじゃない。この物語は類と瑞希だけのもので、私なんかが居ちゃいけなかった。
私は今この空間の中で明らかに異分子だった。
類がこちらに焦点を合わせる。その冷たい瞳が私の心を震わせた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!