バッ!と美和を離し、
もう片方の手で口を拭った善逸。
善逸は混乱しているようで、
慌てて美和から距離をとった。
それに対して私は、ただ呆然とそこに立ち尽くしていた。
__美和は私と目を合わせると舌舐めずりをして
それからニヤリと笑った。
その瞬間、私の中の蓄積された怒りが爆発したのか
バキッ、という大きな音が自身の足元から聞こえた。
視線を落とすと、私の右足部分の床に穴が空いる。あぁ、私が今空けたのか。
脚力...恐るべし。
...善逸もこちらを見て驚いてるようだけど
もう抑えられない。
私は黙って美和に近づいた。
後ずさる美和。
そして、
_パシッ!
辺りに乾いた音が響いた。
両手で頬を押さえた美和と
冷めた目でそれを見ている私
善逸は腕を口に当てたまま、私たちを見て動かない。
っていうか固まってる。可愛い。
やがてドタバタと人が近づいてくる音が聞こえてきた。
しのぶさんの声と炭治郎の声だ。
角を曲がった時、私たちの姿を目にした炭治郎はそう呟いた。
好きな人に本性がバレたら次は仲間を作ろうと必死か。
服を掴まれた炭治郎は一歩、後ろに引き下がる。
炭治郎の鋭い視線が美和に突き刺さった。
純粋で真っ直ぐな炭治郎の瞳。
見つめられた美和は図星をつかれたのか黙って俯いた。
その様子を、後ろから見守る伊之助としのぶさん。
まだしらを切るつもりか。
炭治郎から放たれるオーラは私でも耐えられないから美和にとっては恐怖でしかないんじゃないかな。
そんな空気の中、小さな舌打ちが
この静かな廊下に響いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!