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第4話

助け舟
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2024/10/07 11:29 更新
淵素直
淵素直
今日はどうしよう…予定も無いし…
素直は街中を歩いていた。
偶然バイトも休みの休日。
特にすることもないし、行く予定の場所もない。
友人の飛にでも連絡するか。
そう思い始めていた。
淵素直
淵素直
うん、そうしよう。
素直がスマホを取り出した時だった。
勧誘の人
勧誘の人
こんにちはお兄さん!
淵素直
淵素直
…え?
誰だこの人、という感想が浮かんだ。
別に話したことも無ければ、会ったこともないはずだ。
淵素直
淵素直
(いや…風船病の時に、会ったことがあるのかも…?)
素直は以前、人の顔が風船に見えていた。
その時にあった事があるのかもしれない。
そう考え、素直は笑顔を作る。
淵素直
淵素直
えーと…な、何か…?
勧誘の人
勧誘の人
ああ、申し遅れました。私、威武いぶ協会の奏我無かながな夜雨よさめと言いまして…お兄さん、今、幸せですか?
今、幸せですか。
この問から始まる話を、素直は知っている。
淵素直
淵素直
(あ、宗教勧誘…?)
素直は、ようやく悟った。
宗教には別に興味は無い。
しつこくないと良いな…と思いながら、素直は話を聞くことにした。
淵素直
淵素直
し、幸せ…ですよ?友人にも恵まれて、とっても楽しいですし…
素直は言葉がつっかえない様に気をつけながら返答する。
しかし、男性は大袈裟に首を振る。
勧誘の人
勧誘の人
ええ、そうでしょう!しかし、それは表面上だけなのです!あなたは、まだ真の幸せに、幸福に、辿り着けていないのです!
淵素直
淵素直
は、はあ…
素直は、困ったな、と思い始めていた。
何だかしつこそうだ。
勧誘の人
勧誘の人
威武いぶ協会に入れば、真の幸せを掴めます!魂を清め、身の穢れを祓い、極楽に行くことができるのです!時間がかかりますし、初期費用はありますが、素晴らしき幸せを掴めますよ!
男性は早口でまくし立てる。
淵素直
淵素直
あ、あの…だ、大丈夫…です…
素直が、少し遠慮がちに遠回しに断っても、男性は引かない。
勧誘の人
勧誘の人
最初は皆さんそう言います!ですが、最後には幸せそうですよ!不安だとは思いますが、その一歩を踏み出すことで、あなたは極楽に行くことができるのです!
男性の目は血走っている。
もはや恐怖を抱き始める。
淵素直
淵素直
(ど、どう断れば…え、誰かヘルプミー…)
もちろん、そう願っても誰かが助けてくれるはずもない。
素直が無言なのを、検討しているとでも勘違いしたらしい男性が、更に距離を詰める。
勧誘の人
勧誘の人
この協会は、あなたに救いを与えてくれます!この聖典をお読みください!我が教祖は、あなたのような迷える子羊を救済して下さいますから!
淵素直
淵素直
え…え…?
勧誘の人
勧誘の人
近場でサミットがあります!そこに行きましょう!さあさあ!
男性は素直を強引に連れて行こうとする。
そして素直は、バイト先の後輩に聞いた噂を思い出した。
淵素直
淵素直
(そ、そういえば…この辺で悪質な宗教勧誘があるって言ってた…サミットまで言ったら、強引にお金を取られるって…警察も、捕まえられてないって…)
素直は、サミットだけは絶対に断らねばと考える。
しかし、素直は人の頼みを断るのが苦手だ。
何でも笑顔で頷いてしまう。
断ろう断ろうと思うのに、声が喉の奥に張り付き出てこない。
勧誘の人
勧誘の人
こちらです!付いてきて下さい!
淵素直
淵素直
あ、えっと…は…
弟切飛
弟切飛
間に合ってる。
素直が涙目で頷きそうになった時だった。
友人の飛が、素直と宗教勧誘の者の間に、かなり強引に割り込んだ。
流石に、宗教勧誘の男は驚いた。
しかし、すぐに調子を戻す。
勧誘の人
勧誘の人
は、話を聞いていたのですか?我らが威武いぶ協会は、あなた達に救いを…
弟切飛
弟切飛
ああ、聞いていたよ。それで、素直に迷惑をかけているのもな。
飛は、鋭い目付きで宗教勧誘の男を睨む。
弟切飛
弟切飛
こいつは、別にお前らの言う幸せなんか求めちゃいない。お前が勝手に幸せを決めるな。それに、人様に迷惑をかけるな。
勧誘の人
勧誘の人
いや、あの…私達はあなた方の幸せを…教祖様もそれを願って…
弟切飛
弟切飛
他人に願われても嬉しくも何とも無いね。淵に飯に誘われる方が百倍良い。どうしてもと言うなら、俺の前から消えろ。
飛は、かなり鋭い言葉をかける。
男性は、飛の殺意の込もった目に怯えたのか、無理と判断したのか、後退する。
そして…
勧誘の人
勧誘の人
し、失礼しました…どうやら、これは必要無かったようです…
弟切飛
弟切飛
最初からそう言ってるだろ。行け。
勧誘の人
勧誘の人
は、はい…
宗教勧誘の人は、いそいそと去って行った。
淵素直
淵素直
飛ぃ…ありがとう…
素直は、ホッと胸を撫で下ろす。
ようやく心が落ち着いた。
飛も、何だかスッキリした顔だ。
弟切飛
弟切飛
…もっと早く来たかったんだが…どうしても手が離せなくてな…会話は聞こえてたから、急いで来た。お前、断れないだろ。
大方、仕事中だったのだろう。
電話しなくて良かった、と心の底から素直は思った。
淵素直
淵素直
ご明察…あと、仕事邪魔しちゃったかな…?ごめんね…?
弟切飛
弟切飛
別に良い。もう仕事は終わったしな。
飛は、んー、と伸びをする。
弟切飛
弟切飛
さて、貸し一つだ。飯奢れ。
淵素直
淵素直
ええ…?仕方ないなぁ…今回は助けられたし…分かったよ。
その後、飛と素直は近場のラーメン屋でご飯を食べた。
素直の奢りだったからか、流石に遠慮したようで、飛はいつもよりかは食べていなかった。
常人と比べれば多かったが、遠慮は確かにしたのだろう。
二人は、何やかんや言って友達だ。

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