第102話

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2023/07/30 11:00 更新
何となくしんみりとしてしまったが時間が経つのは止められない。そのまま普段通りに過ごし翌日を迎えた私達は、汚れてもいい服に着替えてから居間へと集合していた。
あなた
それでは今から大掃除を始めます!サボらないこと!
そう宣言すれば、間延びした返事をしてそれぞれが持ち場へと向かう為に動き出した。
加賀美ハヤト
こういう場所って、宝物とかありそうで楽しいですよね
不破湊
しゃちょの実家?とかって和風なんやっけ?
加賀美ハヤト
いえ、実家は特に。祖父母の家がここみたいな感じで、蔵もあるんですよ
あなた
加賀美さんのお爺様方のお家の蔵ってことは、ガチの宝物があるんじゃ…?
加賀美ハヤト
幼い頃、忍び込んだ時に割ってしまった壺がウン千万だったらしいです
不破湊
いや怖!えっ、ガチの宝物庫やんけ!
あなた
そんな凄い所とこんな物置みたいなところ同列に話すのやめよ!?
彼の家がかなりお金のある所だと言うのは、彼自身が会社の代表をしていたりすることから知っていたが、軽く話された内容に全力で首を振る。
たまたま割ってしまった壺が何千万という金額ということは、そこにある物の平均金額は幾らだと言うのか。
そんな豪華な蔵と、今自分達が片付けている小汚い物置状態の蔵を同列として楽しそうに話されるのはハードルがあまりにも高すぎる。
流石の不破さんも少しばかり引き気味に加賀美さんを見ている。
そんな私達を見てもどうしたのかと不思議そうに首を傾げる加賀美さんとは、改めて根底に価値観の差があるのだと感じた。
加賀美ハヤト
テント、これ1回外出して広げてからじゃないと無理そうですね
支柱と布がぐちゃぐちゃに適当に纏められているテントを持ち上げて外へ出る彼を呆然と見送る。
そのテントは大人数用のもので、布の部分だけでもそれなりの重さをしているはずだ。それをさらに重い支柱と共に1人で抱えて歩く姿には驚愕しかない。
不破湊
やばくね?やっぱしゃちょってゴリラなんやな…
口の端をひくりと引き攣らせた不破さんはそう言ってから水鉄砲等を乾燥させるために抱えて加賀美さんの後を追うように外へと出ていった。

蔵の中には叔父の私物であろう物から、古くなり使わなくなったもの、普段は使わないイベント用の物など多くの物が溢れている。
特に、テントを初めとしたイベント物は多くあり、それらを片付けるだけでだいぶ整頓された気がする。
窓や入り口を限界まで開き中の埃を外へと叩き出す。
2人は汗を拭いながらも頭にタオルを巻いたり袖を肩まで上げたりとどうにか暑さを逃がそうとしながらも手は止めない。
そこの3人〜!水分補給班が来たよ〜!
のんびりとした声と共に、お盆に3つのグラスと飲み物の入ったピッチャーを乗せて叶くんが母屋から歩いてくる。
加賀美ハヤト
わぁ、助かります!ありがとうございます
不破湊
かなかなナイスゥ!これで生き延びれるわ
あなた
喉乾いたぁ〜!ありがとう〜!!
砂糖に群がるアリの様に集まれば、それぞれグラスの中身を一気に飲み干し、おかわりを入れてもう一度口にしてから漸く一息ついた。
まだ外は暑いもんねぇ。持ってきてよかったよ、熱中症は洒落にならないからね
呆れ顔でそういう叶君は、私達に休憩の大切さを叱るように途中で休むように言いつけると自分の持ち場に戻る為に母屋へと踵を返して行った。
加賀美ハヤト
もう少しだけ片付けたら1度ガッツリ休みますか
不破湊
やれるとこまでやんべ
あなた
あとちょっとがんばろー!
おー!と手を上げて再び蔵の中へと入っていく。
全員が1度始めたら細かく綺麗にしたいタイプだったこともあり、その中はだいぶ綺麗になっている。
正直ここまでやる必要があったかと問われればないと思うし、帰ってきた叔父はびっくりすると思う。
あなた
(まあ、悪いことしてる訳じゃないし)
棚にあるもの1つでも汚れたままなのが気になり、それらを手に取っては濡らした雑巾で細かく拭いていく。
無駄な雑談などをするようなこともなく三人全員がそうして掃除をしてる姿はなかなかに怖いものだったらしい。
甲斐田晴
うわっ!びっくりしたー!
掃除用具を片付けに来た甲斐田くんが黙々と手を止めない私達を見て短く悲鳴をあげたことで、私達は一度手を止めた。
甲斐田晴
ちょっと3人とも、もうお昼とっくにも過ぎてますよ?
加賀美ハヤト
えっ?
不破湊
はぁ?
あなた
うそぉ?
引き気味の様子で言われて外を見れば、確かに太陽はてっぺんを通り過ぎていた。
私達はどうやら昼食の休憩もとらずに懇々と掃除を続けていたらしい、蔵の中は9割方綺麗に磨き上げられている。
これはさすがにいけない。そう思ったのは2人も同じようで、顔を見合せて苦笑した。
加賀美ハヤト
…休憩、しますか
不破湊
腹減ったかもしれん
あなた
1回母屋に帰ろっか
太陽が照らす中母屋に帰れば、まず最初に待ち受けていたのは叶君のお説教であった。

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