第104話

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2023/07/31 05:00
あなた
えっ、海?
9月まで残り1週間となる前日の夕食時、問われた言葉にキョトンと目を瞬かせた。
加賀美ハヤト
はい、我々と行きませんか?海
あなた
え、え?みんなお外行くの?え、海ってでも、人が…
この時期の海なんかみんな来ないんじゃない?クラゲだらけで入れるわけも無いし
剣持刀也
むしろ、全員で行くならこのタイミングしかないのでは?
言われて気づく。確かに夏も終わるこの時期の海はクラゲが多い為に海水浴に来る人はほとんど居ないだろう。
精々が釣り人等だろうか。そう考えれば出かける先としては最適だと思う。しかしだ。
あなた
私も、一緒でいいの…?
どうしても気にかかってしまう。
今まで、人の居ない森や山などろくに人目につかない場所にしか同行することなかったなのに、今回はまさか彼らの方から声をかけられるとは。
不破湊
駄目やったら聞かんよ
甲斐田晴
都合がいいようでしたらどうでしょう?
葛葉
どーせ留守番してもごろ寝するだけじゃねーか
自分も居てもいいと言われて葛藤する。
少しでもリスクがあるなら控えるべきなのはわかってる。しかし、もう間もなく彼らとはお別れで、他人に戻ってしまう。
その現実が悩む自分に行ってしまえと悪魔の囁きの様に声をかけてくる。
加賀美ハヤト
最後に、我々と思い出を作りに行きませんか?
少し寂しそうにそう聞かれて胸が締め付けられる。
自分との思い出を彼らも作ろうとしてくれたことが嬉しいだとか、自分も本当に行っても大丈夫なのかだとか、自分と同じく、彼らも思い出を大事にしようとしてくれてる事に感動だとか。
色んな気持ちがごちゃまぜになる。
あなた
…うん、行く
へにゃ、と下手くそに笑ってそう言えばみんなは嬉しそうに笑顔を浮かべる。


翌日、昨夜の話通り私達は早く起きて朝から海へと向かった。
広い海岸には確かに人は疎らで、時折釣竿とクーラーボックスを広げている人がいる程度だ。
やっぱり綺麗だよねぇ、東北の海
加賀美ハヤト
確かに、関東だとだいぶ濁ってますからね
他の場所は知らぬが、目の前に広がる海はかなり透き通っている。確かにこれと関東の海…例えば東京湾なんかと比べたら全然違うだろう。
波打ち際にも近づかず、ただのんびりと海を眺めながら歩く。
どこか目的地があるのかと思いながらついて行っていたのだが、どうやらここに来る事までしか考えておらず来てからはノープランだったらしい。
くだらないことを話して騒ぎながらただ道なりにそって歩いていく。
剣持刀也
そういえば
不意に剣持君が私の服の裾を引きながらおずおずと口にする。
剣持刀也
最初、めちゃくちゃに疑って、嫌な態度をとってごめんなさい
言われて思い出した。
そう、言われなきゃ思い出せない程に過去のこととして思い出になっていたできごと。
まさか、それを今になって改めて謝られるのは思っておらず驚いた。
あー、僕も。あの時はごめんね
加賀美ハヤト
私も…すみませんでした
予想外のことに狼狽えていると次々に謝罪が降ってきて急いで首を左右にブンブンと振る。
私はもう、あの時のことなど気にもしていなかったのに。
あなた
全然気にしてないよ!大丈夫!
笑ってそう許せばホッとしたように息を吐く。
確かにあの時は酷くショックであったけれど、仕方の無いことだと思うし本当に気にしていない。

こうして過去のことを話したからだろうか。
それを皮切りに話題は今までの思い出のこととなった。




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短くてごめんなさい〜!

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