転孤side
どれだけ待っても、あなたの旧姓ちゃんが公園に来ることはなかった。
空は薄暗くなり、静かに雪が降り始めた。
体の芯から冷えてきて凍えそうだった。
帰らないといけないのはわかっている。
だけど、何故だか体が動かなかった。
声を掛けてくれたのは、あなたの旧姓ちゃんではなく、ハナちゃんだった。
だから絶対に来る。
そう信じていた。
でも、最後まで言葉に出来なかった。
もしも、もしも僕のことが嫌いになったらって思ってしまったから。
そう思って、公園から出た時。
僕の脳内に
『転….孤…』とあなたの旧姓ちゃんの声が響いた。
僕は繋いでいたはなちゃんの手を勢いよく離し駆け出した。
あなたの旧姓ちゃんのお家は知らない。
だけど、僕は無我夢中で走った。
あなたの旧姓ちゃんのところに行ける気がしたから。
走って、走って、走って…。
僕は黒い屋根のお家の前に来た。
そこは僕のお家よりも大きくて立派な家だった。
このお家があなたの旧姓ちゃんのお家かな?
そう思い、門を開けようとした時、
僕の視界に何かが映った。
見たことのある短いクリーム色の髪の毛、
小さな体
そして、
首を見て確信した。
前に遊んだ時に見せてくれた蔦と薔薇の模様…。
そこには傷だらけでところどころ流血している
あなたの旧姓ちゃんが倒れていた。
僕はあなたの旧姓ちゃんを抱き抱えた。
雪が降っているせいか、とても冷たかった。
体を揺らしてみるが反応はない。
しかし、浅くはあるが息をしている。
そこに遅れて僕に追いついたはなちゃんが来た。
そして、僕らはお家に帰ることになった。
ガチャ
ドアを開けると、お母さんが焦った様子でいた。
すぐにお母さんは慌てている僕たちの状況を理解したのか、背負っているあなたの旧姓ちゃんをすぐにソファへと連れていった。
僕らは順番に話をしていった。
公園で遊ぶはずだったのに、5時になってもこなかったこと。
約束を破るような子じゃないから心配になってもう少し待ってみたこと。
30分経っても来なかったから帰ろうとしたこと。
帰ろうと思ったら何処からか自分の名前が呼ばれた気がしたこと。
その声があなたの旧姓ちゃんに似ていたこと。
無我夢中で声のする方に走っていったこと。
走り続けるとあなたの旧姓ちゃんの家に着いたこと。
玄関の前で血を流したあなたの旧姓ちゃんが倒れていたこと。
意識がなかったから心配して家まで連れて帰ったこと。
“ぎゃくたい”と言うのが何なのかはわからないけど、兎に角あなたの旧姓ちゃんが大変な状況に置かれているっていることだけはよくわかった。
僕はそっとソファの上で眠っているあなたの旧姓ちゃんの頭を撫でた。
このままあなたの旧姓ちゃんが離れていってしまう気がしたから。
とても怖く感じた。
僕はただあなたの旧姓ちゃんが早く起きる事を願う以外出来ることがなかった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。