ー 数日後 ー
あなた side
カコンと、柔らかな竹の音が鳴り響く。
砂で敷き詰められた庭に備え付けられた
紅や黒の鯉が泳ぐ少し大きな池。
そこから少し離れた縁側に座って
目の前の竹でできた筒をぼーっと眺めていた。
竹の中にゆっくりと水が溜まっていき
やがて竹は水の重さに耐えられなくなり
流れ続ける水を断ち切るように、
口を下げて、溜まったモノを溢れ出す。
そんな動作がひたすら繰り返されている。
後ろに現れたふしの呪力を相手に、そう呟く。
背後に居るから見えないけれど、ふしの驚くサマは
ゴクリと息を飲む音から簡単に想像が着いた。
私を気遣うような、そんな優しい声。
緊張を孕んだその様子に、少しだけ心が揺れる。
なんて答えようかと悩んでいる間、
目の前で上から下へと緩やかに流れる水は
とめどなく筒の中に入っては、捨てられていく。
後ろを振り返りふしの顔を見つめつつ、
スっと目の前の竹に指を指す。
そんな私に、ふしは数秒間「は?」という
心底意味不明だ、とでも言いたげな表情を浮かべた。
数秒間沈黙した後、
ようやく私の言葉の意図が伝わったのか
ふしは私の指の指す先を見て、そう呟く。
こんなモノの名前まで知ってるなんて
ふしはやっぱり頭が良いなぁ。
そんなことをしみじみと感じつつ、言葉を続けた。
溜め込みすぎると、重たくて捨てたくなる。
でも何も入っていないのは、何だか物足りない。
辛そうに歪められたその顔を見て
あー、スキだなぁ。と思う反面、
胸の奥がチクチクと痛む。
こんな複雑で、厄介な''重たい感情''は
もう既に私の心の中に溜まりきってしまっている。
でも未だに捨ててしまえないのは、
空っぽになってしまうのが怖いから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!