第42話

絆される
364
2024/06/14 16:38

 あなた side









  あぁ可哀想に、
こんなに可愛いお顔に傷がついて……





   ソレは私の上半身を優しく起き上がらせると

   私の頬を自分の手で包み込み、そう言った。





    そして、近くに控えていた別の存在に

  「手当するわ。道具を持ってきなさい」と命令する。





  お母さんがすぐ治療してあげるからね  
ちょっと待っててね
あなた
  けほっ……っ、おかぁ、さん?  





     お母さんという言葉を復唱すると、

 ソレはピクリと肩を揺らし、複雑な表情を浮かべる。






  御当主様の話が  
うまく理解出来なかったのね
  でも仕方ないわ。突然の話だもの  
驚いてしまうわよね
あなた
  ?……どういうこと  






     御当主様って「婚姻」がどうのこうの

        言ってた奴だよね?

      たしかに長々と話してたけど、

       あんまり聞いてなかった……






禪院 文縄
  私は禪院 文縄
私が貴方の''本当のお母さん''なのよ
あなた
  本当の、おかぁさん、?  


























 ー 15年前 ー


  No side









禪院 文縄
  ……貴方の赤子もおなごのようね  





    禪院文縄の子が女児であると判明した翌日、

    ほぼ同時期に妊娠していた彌生の子もまた、

   女児であるという話が文縄の耳に入っていた。




せせらぎ 彌生やよい
  …それが如何なさいましたか? 






    縁側で優雅に座り、庭を眺める文縄に

  彌生はキッと睨みをきかせ、警戒心を全面に出す。





      文縄はその視線に気付きつつも、

       変わらぬ調子で淡々と答えた。





禪院 文縄
  ''妾''である貴方の子がおなご……  
この家では肩身が狭いでしょうね
禪院 文縄
  …御当主様もどんな術師の才を持とうが  
女児には興味を持たれない
禪院 文縄
  きっとその腹の中に宿る子は  
さぞ辛い人生を歩む事になるわ
せせらぎ 彌生やよい
  …いったい何を仰っているのでしょうか  
禪院 文縄
  ふふ……そう警戒しないで  
貴方にとって悪い話では無いのよ





    文縄は腰を上げて、彌生の傍まで近寄ると

   その優美な唇をニヤリと歪め、耳元で囁く。




禪院 文縄
  私が貴方と子が幸せに暮らせるよう  
''手助け''して上げる
せせらぎ 彌生やよい
  ……は? 






    「信じられない」と言わんばかりの顔で

      彌生は目をぱちくりとさせる。






禪院 文縄
  住居、逃走後の資金、偽りの戸籍……
必要なものは全て私が用意してあげるわ
禪院 文縄
  だから貴方は安心して子を産みなさい  
その後すぐこの家から逃げ出すのよ
せせらぎ 彌生やよい
  は…何を言って……  
何を企んでいるの……!?





  文縄の突然の提案に、彌生は驚きを隠せなかった。

  文縄の予想外の恐ろしさに、思わず数歩後退る。




禪院 文縄
  企み…?そんなものは無いわ  




        心底悲しそうに眉を下げ、

     その大きな瞳には薄い涙の膜を張る。



禪院 文縄
  私はただ、たった一人の妹に  
一度くらいは姉らしい事をしたいだけよ






      後ずさった彌生に再度詰め寄り、

      その手で彌生の手を包み込む。






    その手が震えていることに気付いた彌生は

    初めて姉の''弱い部分''を見れた気がした。





せせらぎ 彌生やよい
  どうして今更…そんなことを……  
禪院 文縄
  今まで、貴方は私を嫌っていると知って  
いたから、関わらないようにしていたの
禪院 文縄
  けれど、今になってようやく気づいた  
禪院 文縄
  本当に貴方のことを思うなら  
姉として貴方を守るべきだって





      二人の視線が真っ直ぐと結びつく。

この頃にはもう、彌生は文縄によって絆されていた。




せせらぎ 彌生やよい
  っ……  





























せせらぎ 彌生やよい
  ありがとう……お姉様  





   そう小さく呟かれた彌生の言葉に応えるように

      文縄は優しく彌生を抱きしめる。




禪院 文縄
  ……ふふ、本当に可愛らしい子  






  彌生を抱きしめている最中、文縄が浮かべた笑みは

      どれほど恐ろしいものだったか、

       彌生は知る由もなかった。




















_@_
更新遅くなりすみません💦

プリ小説オーディオドラマ