あなた side
ドガッ、という音がしたと思ったら
みぞおちをトンカチで殴られたみたいな痛みが走って
その場から吹き飛ばされる。
受け身すら取る気が無かったから
訓練場と思わしき冷たいフローリングに
転がりながら何度も体中を打ち付けた。
痛みのせいか、喉から汚い呻き声が出てくる。
私を殴ったソレは、そんなことは気にもとめず
再び目に見えない速さで私に攻撃を加えた。
勝手に連れてきて勝手に殴っておきながら
酷い言いようだ。
「だったら殴らなければ?」なんて言葉も
呻き声に埋もれていく。
ソレは私の髪をくしゃっと掴み、
私の髪ごと強引に持ち上げた。
ブチブチと何本か髪がちぎれた音がしたけど
意外と髪って強いんだなって感じた。あと痛い。
憎悪と嫉妬、屈辱が渦巻いたような眼。
そんな眼を向けられる様なことをした覚えは無い。
まぁ、誰に恨まれようがもうどうでもいいか。
いっそこのまま殺してくれても構わない。
ずっと黙っていたら、乱雑に投げられ
その場にドサッと倒れこむ。
私を殴る気が失せたのか
チッと舌打ちをしたあと部屋から出て行った。
数時間前に聞かされた言葉が、
自然と口から溢れ出る。
殴られた箇所の痛みで忘れていた
その時の情景が、再び浮かび上がってきた。
禪院家に案内されて、
まず初めにある部屋に連れてかれた。
そこには洗練された呪力を纏う者が多く居て
一級程度の実力者達なんだろう。
そしてその真ん中で堂々と座っている奴は
長々と何かを喋っていたが、あまり覚えていない。
ただ、唯一頭に残ったのは「婚姻」という言葉。
どうやら私はこの家の娘として
何処かの知らない男と結婚して、
子供を産まなきゃいけないらしい。
一通り話を聞き終えたら、
さっきの奴に無理やりここまで連れてこられて、
話の流れは冒頭に戻る。
「婚姻」という言葉を聞いた時
自然とふしの事が脳裏に過った。
別に、ふしと結婚したかったわけじゃない。
ふしと居る時の私は違和感ばかりだったけど
それが新鮮で、心地よい感覚だった。
だから、ふしと一緒に居たかった。
それが私の一番大きな思いだった。
でも、その感情は段々大きくなっていって
ふしにも同じ感情を持つよう願ってしまっている。
私はどうすれば良かったの?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。