No side
粼 文縄は幸運の持ち主であった。
御三家に直接仕える名家の家柄
その長女として生まれ、膨大な呪力量を誇っており、
誰もが羨む美貌さえも手にしていた文縄は
家の者達に、蝶よ花よと大切に育てられてきた。
そんな彼女は禪院家当主である禪院直毘人に嫁ぎ
多くの男児を産んで禪院家に貢献した。
中でも直哉は相伝の術式を持つ逸材であり
多くの者が文縄を''女の鏡だ''と賞賛し
文縄もまた、自身の幸運に酔いしれていた。
しかし、そんな幸運と呼ばれる幻夢も
そう長くは続かない。
皆が喉から手が出る程羨んだ文縄の美貌も
齢三十を過ぎた辺りから曇りを見せ始め
遂には、禪院直毘人は妾を持つようになった。
加え、その妾は文縄の実の妹である''彌生''であった。
常に人々からの賞賛を得ていた姉と
その影に隠れていた妹、仲の悪さは言うまでもない。
だからこそ、文縄は焦りと苛立ちを抱えていた。
今まで当たり前だった自分の座が、
眼中に無かった妹に奪われようとしているのだから。
その野心の末に孕んだ子こそ''桃''であった。
しかし、その子供は文縄にとって
決して幸運なんかでは無かった。
彼女はそこで、
自分がいかに幸運に恵まれていたのか
そして、禪院家における''女''とはどういうものなのかを
ようやく理解した。
彼女にとって、我が子は自身の血を継いだ
もう一人の自分のようなもの。
そんな大切で愛おしい自分の子が貶されるなど
起きてはならないコトなのだ。
それが、これから起こる悲劇の始まりだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。