あなた side
「どうして気づいたの?」とそう笑うソレは
特に気づかれた焦りとかは感じていないみたい。
本当になんとなく。
ただ、直感的にそう感じただけ。
「今は」その言葉に強く念を押したソレは
もう殺意を隠すつもりもないんだ。
スラスラと言葉を続け、
満足そうに話しきったソレは
随分とこの状況を楽しんでいるみたいだ。
「目的にズレてたね。そろそろ行こう」と
勝手に歩き出したソレ。
私が逃げるかも、なんて思考は無いみたい。
まぁ実際、逃げる理由も生きる理由も
ふしに拒絶されたあの時から、私には無い。
…ていうか、この思考すら面倒。
ー 数時間後 ー
結局あの後、特に会話を交わすことも無く
水のように流されるままあの家に辿り着いた。
相変わらず視界に収まらない程の大きさの門が
以前とは違い、大きくその扉を開いていた。
門を越えた先には、石で作られた道を中心に
砂で敷きつめられた庭が広がっており、
小さな池や、形の整えられた草木があって
緑が生い茂っている高専の庭とは少し違った。
門をくぐり少し歩いたところで、
そんな無機質な声が今度は正面の方から聞こえてきた。
ぼんやりとしていた視界を前方に集中させると
私をここまで案内したソレと同じ服装をした人間が
三人くらい、私に向かって頭を下げている。
そんな疑問が少し脳裏を掠めたが、
直ぐに「どうでもいいや」という思考が脳を占拠し
深く考えることをやめた。
桃様と呼ばれようと、この家に引き取られようと
本当に全部がどうでもいい。
少しだけ何か話した後に、三人だけ私の元に来て
「ここからは私共めが御案内します」と言い
私をここまで連れてきたアイツは
そのまま呆気なく去っていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!