真っ暗な部屋。
眩しくパソコンの画面。
散らばったエナジードリンクの空き缶。
ぱたん、とパソコンを閉じて、溜息を吐く。
右手には、古惚けた新聞。
「獅子尾一家殺人事件」
兵庫県⬛︎⬛︎市で発生した、
獅子家の計二名が自宅で殺害された事件。
被害者は、父親である、獅子尾⬛︎⬛︎(⬛︎⬛︎歳)、
母親である、獅子尾⬛︎⬛︎(⬛︎⬛︎歳)。
警視庁は、長男で独り子である、
獅子尾悠佑(六歳)を容疑者と見て、
捜査を行っている。
俺の名前が載った、二十年前の新聞。
俺の名前は獅子尾悠佑。
『獅子尾一家殺人事件』の犯人として追われている。
━━━が、俺は犯人ではない。
二十年前。
当時六歳で、小学校に入学したてだった俺は、
その日も真っ直ぐ家に帰った。
その日は、両親が二人共休みで、
何して遊ぼうかな、なんて考えながら扉を開ける。
そこには、初夏であった当時にしては、
暑すぎる位の玄関があった。
違和感を覚えて、リビングに走る。
地獄絵図だった。
今直ぐ逃げ出したくなる様な悪臭。
真っ赤に染まったフローリング。
所々に散らばる肉片。
━━━目の前の肉塊が、両親であると理解するのに、
数十秒を要した。
恐怖だけが、頭の中を支配して。
気が付いたら、逃げ出していた。
それから、野宿生活が始まった。
生憎、親戚なんて居なかったから、
取り敢えず、死なない事が最優先だった。
死なないで、両親の分まで生きて、
両親の死んだ理由が知りたかった。
二十五歳になった頃、とある男から連絡が来た。
内容は、
異能力者のシェアハウスに参加してみないか、
という物だった。
確かに、俺は異能力者だ。
発した言葉通りになるという、
その気になれば、
一国の王になれる位に、強い異能力の。
だけど、幼い頃から正義感だけは人一倍あったから、
一度も使った事は無かった。
だから、送り主が、俺が異能力者であるという事を、
何処で知ったかは分からない。
裏ルートとか? 詐欺だったらどうしよ。
まあ、生活費が浮くなら、と二つ返事で承諾した。
少し、いや、かなり怪しいが、
両親の原因不明死をも経験した俺なら、
乗り越えられるだろう。
何が起こるかは分からない。
何が起こっても、両親を殺した犯人を、
『獅子尾一家殺人事件』の真実を、突き止めるんだ。
嫌な事を、思い出してしまった。
俺には、思い出に浸っている時間なんて、ないのに。
自室から出て、階段を降りる。
リビングに出ると同時に、勢い良く抱き着かれた。
このデカいのは猫宮いふ。
俺は、まろ、と呼んでいる。
自分は幼児退行する癖に、
あにき可愛い〜!、とか言う、変な奴。
そんなまろを
俺から引き剥がそうとしているのは、稲荷ほとけ。
この家の癒しはこいつ。
大体いつも騒いどるのもこいつ。
ぷくっ、という可愛い効果音が付きそうな位に
頬を膨らませているのは、有栖初兎。
こんな顔して、凄い毒舌の持ち主。兎が友達。
さらっと弟属性を発揮しているのは、大神りうら。
この家の最年少ながら、多分一番のしっかり者。
遠くで叫んでいるのは、乾ないこ。
俺をシェアハウスに誘った張本人で、この家の家主。
この、全員成人済みとは思えない程の騒がしさは、
一年経った今でも慣れない。
━━━いや、あれから二十年経った今でも、
人の温もりに慣れていないのか。
お前らはもう風呂入ったやろ!、と
叫ぶまろをよそに、
俺はまたネガティブな思考を展開する。
あにき、という呼び名は、
俺が此の家の最年長で、
頼り甲斐があるから付けたらしい。
正直、幼い頃に家族を無くした俺にとって、
こいつらは弟の様やったから、
あにき、と呼ばれるのは凄く嬉しかった。
━━━ただ、そんな弟達は、
俺が自室で何をしているのかを、聞いて来ない。
毎回、結構な長時間、自室に籠っているし、
怪しまれてもおかしくはないのに。
━━━もしかしたら。
『獅子尾一家殺人事件』の事を、
俺が殺人犯として追われている事を、
知っているのではないか。
この中に、両親を殺した犯人が居るのではないか。
…だとしたら。
騒がしかったリビングが、嘘の様に静まり返る。
まろ先でええよ、と言い放ち、リビングから出た。
ドアにもたれ、やってしまった、と
薄暗い廊下で後悔する。
…本当は、凄く嬉しかったのに。
でも。
━━━俺には、こんな感情、不要だから。
陸
名前 獅子悠佑
異能力 言霊
念を込めて言葉を発すると、
其の言葉通りになる。
但し、複数回使ったり、
威力の強い言葉を発すると、
喉に負担がかかる。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。