第8話

430
2024/03/29 14:11 更新


目が覚めると、家の前にいた



自分は何をしようとしていたんだろうか



……そうだ、兄さんと気まづくなって



家にいるのが億劫になったから



コンビニに行くって嘘ついて



家から出てきたんだった



「どこ行こうかな」



適当に歩き出した



今は一体何時なんだろうか



スマホも財布も持たないで飛び出してきた



外は薄ら暗い



ふと、頬に触れる



湿布が貼ってある



影山を庇って兄さんに殴られた痕



痛みはもうないけれど



心の痛みが押し寄せてくる



目を伏せると聞こえてくる



『及川さんの弟なのに全然似てねぇな』



『及川先輩は天才なのにな』



『及川さんは今のレシーブミスったりしねぇよ』



「煩いなぁ、分かってんだよそんなこと」



耳を塞いでも聞こえてくる



「及川の弟なのに」



俺は知っている



兄が、天才じゃないことを



俺は知っている



兄が、焦っていることを



俺は知っていて



あの日まで見てみぬフリをした



俺だって



焦っていた



天才じゃないことを知っていた



兄さんみたいなセンスを磨く術も



人当たりの良い性格も



身長だって何もかも違った



ただ、自分より強い相手が出てきたぐらいで



そんなに焦る理由がわからない



そう言い訳した



『サーブトスを教えてください』



そう兄に駆け寄る影山



兄の顔が一瞬



俺の知らない顔になった



咄嗟に間に割り込んだら



パンッッ、と乾いた音と



自分の頬からジンジンとした痛みを感じて



殴られたとわかった



岩ちゃんが静止に入り、影山に帰るよう促して



兄さんは俺にただ謝るだけだった



「俺だって辛いのに」



段々イライラしてきた俺は



兄さんの胸ぐらを掴んで



押し倒した



殴ろうとして、



そこから記憶が曖昧だ



その日から俺は生きた心地がしなくて



段々と思い出してきて



俺は今夢の中だ、と



そう思った



伏せていた目を開けると



そこは海で



昔よく来た、兄さんと思い出の場所



このまま消えてなくなればいいのに



なんて思いながら



沖へ沖へと歩いていく



月が海に反射して綺麗だった



波の音が静で



俺が並に逆らって海に入っていく音が辺りに響く



服が濡れて気持ち悪いな



『このまま死んじゃえばいいんじゃない』



そうだね、死んじゃったら楽だと思う



『お前は兄さんみたいになれないよ』



わかってる、そんなこと昔から



『岩ちゃんも、所詮兄さんしか見てない』



俺より仲良いもん、当たり前だよ



「消えたいな」



『消えちゃいなよ』



「怒られるかな」



『誰に?』



「わからない、ただ怒られる気がする」



『変なの』



「君は一体誰なの」



『僕は君で、君は僕さ』



「それこそ変だ、俺は1人だけ」



『夢の中だもの、なんだってあり』



「その癖に、俺は消えないんだ」



『君が本気で消えようと思ってないからだよ』



「…そっか、そうかも」



『寒いんじゃないの?』



「寒いよ、もう秋だもの」



『寂しいんじゃないの?』



「そんな甘えた事もう言えないよ」



『じゃあ、どうするの?』



「そんなの決めれないよ」



『意味わかんない』



「俺もわかんない」



『本当に、変なの』



そう聞こえて、気付くと海の底



あぁ、俺死ぬんだななんて、客観的に見える



次第に息が出来なくなって



遠くから兄さんの声がする



_____ 周は周のままでいいんだよ



そんなの遅すぎるよ

プリ小説オーディオドラマ