少女・『さくら』は疾走していた。裸足で、家の廊下の白いタイルを踏みしめて。
普段は整っている丁寧語も、今日は適当である。
『さくら』は、諸手を上げて快哉を叫んだ。祖父の家には、数年前までは住んでいたのだが、それ以降は全く行けなくなってしまった。
ある事情によって。
目を閉じれば、木漏れ日、近くの建物、川の輝きまでもが浮かんでくる。
ふらっと帰ってきて、すぐにどこかへ逃げてしまう兄のことだ、どうせ他県かどこかをほっつき歩いているのだろう。
一応、世間一般的な不良行為には手を染めていないそうだが、家に帰らずずっとどこかへ行っていることは、さくらにとっては十分不良だ。
家に帰らずどこかを歩く・・・ふと、黒髪の少年を思い出した。
普段は添加物がどうのこうの言って、全く食べさせてもらえないコンビニおにぎり。それたった一つをタイミングを見計らって渡すだけで、相手を引き留める。
自販機でもあれば、即席でできるトラップだが、あれは、相手が逃げるかどうか、逃げるとしたらいつなのかも見越して渡していた。
とてもではないが、なかなか、瞬時にできる技ではない。
まあ、あれだけの機転が利くのであれば、きっと大丈夫だろう。なんとかなっているはずだ。
部家に転がり込み、そのまま窓枠に飛び乗る。何百何千と見た、窓の外を眺める。光を伴った風が吹いていた。
性格はあまりよくないし、家を出て旅をするなんて言っていたし、自分勝手だし、それでもなんだかんだ優しいし。
誰にともなく言い訳をする。違う、言い訳じゃない。これは事実だから!!
さくらは、窓枠に座り直した。どこかで誰かが昼御飯を作っているのだろう、いい匂いがする。
家政婦が世話しなく動いているのが聞こえる。昼食は、まだまだ遠そうだ。
とある朝の公園。
「B」は、絶望していた。
肩から、ミュータントが覗いている。
どうした?と問いかけるように泣くミュータント。「B」は、光を失った瞳で、手の中の財布を見つめていた。
これを現代語では『ヤバい』とでもいうのだろうか。その辺に疎い「B」にはよく分からなかったが、恐らくこれは『ヤバい』状況なのだろう。『詰んだ』かもしれない。
一応小遣いは貰っていたが、外にでない「B」には使い道がない。仕方なく貯金していたのだが、今現在、それが尽きそうなのである。
本当なら足りる計算だったのだが、それもエンゲル係数が上がってしまったので意味がない。「B」は恨めしげにミュータントを睨んだ。
無論、本人(?)は知らんぷりである。
7月が始まったばかりの今日は、微妙に暑い。
何故か冷えているミュータントを保冷剤代わりにポケットに入れ、「B」は歩き始めた。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!