前の話
一覧へ
霧のような灰色の空が、永遠に沈んでいた。
そこに立つのは、紙袋をかぶった少年――“モノ”。
彼の世界には、音がない。
聞こえるのは、テレビのざらついたノイズと、
遠くで鳴る歪んだ風の音だけ。
建物は傾き、街はねじれ、
人々は“画面”の中へと吸い込まれていった。
誰もが目を失い、ただ光の中へと溶けていく。
モノは走る。
崩れかけた床を渡り、影のような手を避けながら。
やがて、彼は出会う。
小さな箱の中に閉じ込められた少女――シックスに。
彼女の瞳は、どこか遠くを見ていた。
モノはその手を取る。
ふたりの間に言葉はなかった。
ただ、沈みゆく世界の中で、
“生き延びる”という目的だけが、彼らを繋いでいた。
――だが、街は彼らを拒む。
雨の降る校舎、首のない教師、
歪んだ子供たちの人形。
伸びる手、笑う目、
世界は少しずつ壊れていく。
そして、彼らは信号塔へと辿り着く。
時間がねじれ、現実がほどけていく場所。
塔の奥には“シン・マン”――
ノイズの中から現れる、細長い影。
逃げる。
走る。
手を離さないように――
だが、いつか必ず、何かが離れていく。
モノはシックスを助け、何度も世界を超えた。
けれど、最後の瞬間――
その小さな手は、もう握り返してはくれなかった。
彼女はモノを見下ろし、
沈む床の上で、ただ目を閉じた。
その瞬間、少年の中に残ったのは、
怒りでも悲しみでもなく――静寂だった。
やがて彼は立ち上がる。
歪んだ部屋の中で、ゆっくりと背を伸ばす。
テレビの音が消え、
ノイズが彼の身体を包む。
そして、“モノ”は――
“シン・マン”になった。
永遠に、あの塔の中で。
いつか、あの少女が再び通り過ぎるその時を、
ただ静かに待ち続けながら。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。