第32話

29.いつかの約束
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2025/06/19 08:39 更新
春が訪れてから1ヶ月が経った


その間に羽根やツノの粉末が届き、アニキは幸精肉店を開店させた


その中にみんなの一部が入っているかも、と思うと少し複雑な気分になる


でも判別なんてつかないし、それがみんなの幸せなんだ




H.
アニキ、羽の痛み無くなったかも!
Y.
ほんま?良かったな
前に言っていた通り、1ヶ月で痛みが無くなった


やはり天使は願いが全てだ


この願いの力は人間になったら無くなるのだろうか


僕はまた、人間を可哀想に思った


まぁ、僕ももうすぐそんな人間になるんだけど
Y.
傷が良くなったなら、必要な道具買ってくるわ
H.
必要な道具?
Y.
人間にするのにな
H.
へ〜、何が必要なの?
H.
あ、そもそも人間になる為の方法を知らない!
僕がそう言うと、アニキは外に出る準備を中断してくれた


人間になる為の方法を教えてくれる様だ
Y.
簡単やで。天使の輪を切るだけ
Y.
だけ・・って言っても辛いんやけど...
H.
天使の輪を切るの!?ってか切れるの!?
Y.
天使の輪は5つに切り分ける事で頭上から外れるんや
H.
で、それが"死ぬより痛くて辛く苦しい"んだ
Y.
よう覚えとるな...
彼は「気になるならどう辛いか教えてやる」と言った


僕は首を横に振って答える


どれだけ怖いと思っても、生きる為に乗り越えなきゃいけないのだから


知ったら怖気付いてしまいそうで不安だった
Y.
気になったらいつでも聞いてや





アニキは"必要な道具"を買いに行った


人間が住んでいる場所はどんな感じなのだろうか


管理された場所から出た事がなかったからわからない




だからこそ、人間になったら沢山見に行きたいと思う


そして神の元で会った時にみんなに伝えるんだ


僕は生きる為だけでなく、人間になりたいと思っていた
H.
でも痛いんだよね...
H.
怖いな〜...あー...
H.
でも、「神様になってあげる」って言っちゃったもんね
H.
頑張らないと...!死にたくないし










Y.
いつにする?
帰って来たアニキは、「ただいま」の後にそう言った


先送りにせず、早い方が良いだろう
H.
明日!
Y.
早ない?傷も痛まなくなったばっかやし
H.
いいの!怖い事はさっさと終わらせちゃいたいから
Y.
勇敢やなw
Y.
ほとけが良いなら、わかった。明日な





もうすっかりバランスが取れる様になった身体でアニキの前に座った


彼が作ったご飯を口にする


生きるなら必要になるだろうから、と料理も少しずつ習っていた
Y.
そういや、ほとけは何でそこまでして生きていたいん?
H.
あれ、言った事なかったっけ?
口の中の物を飲み込んだ後「無いな」と答える


言われてみれば、生きたい理由は言った事がなかった気がする


最も、理由と言う程大層な事では無いけれど


僕はずっとこの一心だけなんだ
H.
だって、死ぬのは怖いじゃん
Y.
...怖いって...それだけ?
H.
それだけって...死んだら居なくなっちゃうんだよ!
Y.
それはそうなんやけど...ほとけは食用天使やから
Y.
食用天使はが怖く無い様に改造されてるんやで
そんな事を言われたって、怖いものは怖いのだから仕方ない


僕は死んで誰かの幸せの糧になる事が幸せだと思えないんだ
H.
死にたくないって、人間だったら普通でしょ
H.
僕が天使ってだけでそんなに可笑しな事になるの?
H.
死ぬのが怖いって、"それだけ"?
H.
僕からすれば、みんながそんなに死にたがってる方が可笑しいよ
Y.
...確かに
アニキは少し悩んでその肯定を返した


「10年以上経ってすっかり忘れてた」らしい


彼はいつから"堕天使となった罪"を受けていたのだろう
Y.
そういや俺も、人間の為に喜んで死ぬ天使を可笑しいと思ってた
Y.
可笑しくない
Y.
死にたくない、死ぬのが怖いって当たり前の感情や
Y.
ただ俺達、ほとけ以外の天使がわからんくなってただけで
優しい瞳が僕を見る


僕の恐怖が初めて理解された瞬間だと思った


アニキは理解して、きっと少しは共感してくれている
H.
あっ、今は他にも理由あるよ!
H.
友達と「神の元で会おう」って約束したの
Y.
約束...楽しそうでええな
H.
アニキも僕の事待っててね
Y.
俺も?
H.
もちろん。アニキも僕の友達でしょ?
彼は笑って「人間の世界の楽しい事、沢山教えてな」と言ってくれた


罪に囚われて生きて来たのだろう


僕はみんなを紹介する事も約束する


こんな約束は、きっと逃れられない"死"を怖くなくしてくれるんだろうな



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