第11話

アイドルと卑怯なマカロン
2,757
2019/10/01 00:53
久しぶりにこんなに走った。息も切れ切れでもう走れない。でも、止まれない!
二人の仕事を邪魔した私は先生失格。
朔也
朔也
待てって言ってんだろ!
夢叶
夢叶
きゃあっ!
腕を強く掴まれ引き寄せられた。
そのまま、後ろから覆い被さられるように抱きすくめられる。肩とお腹に朔也くんの腕が回され、ぎゅっと私を離さないとでも言うように力が入ってきて少し息が詰まる。
朔也
朔也
馬鹿。どこ行くんだよ
静かでいつもより少し低い声で耳元で、囁かれる。
夢叶
夢叶
だって、私……ご迷惑を掛けてしまって、私なんか先生と呼ばれる資格無いです
自分の不甲斐無さなのか、背中から伝わる朔也くんの温もりの所為なのかは、分からないけど手汗が止まらない。
それに、不謹慎だけど少しドキドキしている自分がいて嫌になる。
朔也
朔也
迷惑なんか掛けられてない。てか、おまえ階段の上り方危なっかしい。フラフラし過ぎ
少し名残惜しそうに腕が離れて、私を解放してくれる。
足音が聞こえてくる。だから、離したのか。
朔也
朔也
行くぞ
夢叶
夢叶
え?
朔也くんに手を引かれ階段をもう一階分上がる。
朔也
朔也
暴れて落ちるなよ
連れてこられたのは、屋上。太陽が沈みかけ、ピンクともオレンジとも言えない鮮やかな空色になる。周りの建物に反射して、街を染めているようだ。
風が強く、スカートがめくれそうになるのるを押さえる。
朔也
朔也
初めて二人きりになった
確かに言われてみればそうだ。
朔也
朔也
こっち見ろ
少しの気まずさを覚えながらゆっくりと、朔也くんを見上げる。
夢叶
夢叶
あ、あの……
朔也
朔也
ん?
朔也くんが優しく指先で私の頬を撫でる。触れられた所が熱を帯びて熱い。
嫌な感じはしないけど、分からない。目頭が熱くなって泣きそう。
夢叶
夢叶
ごめんなさい。私、最低なことしちゃいました……
朔也
朔也
おまえが怒ってくれたから、すっきりした。そうじゃなければ、俺が殴ってたから
頬に手を添えられる。
申し訳ない気持ちと、泣きそうなほどの安心感で頭がごちゃごちゃになってくる。
夢叶
夢叶
怒っていないんですか?
朔也
朔也
馬鹿だな。怒るわけないだろ?おまえは最高の先生だよ。俺達の為に、あんなに派手に怒ってくれる奴はおまえしかいない
その言葉だけで少し救われた。でも、朔也くんは許してくれてもやったことは変わらない。
朔也
朔也
なんで泣きそうなんだよ。本当、可愛いやつ……
朔也くんは少し困ったような笑顔を浮かべると、そのままゆっくり顔を近づけてくる。
唇が触れそう。
私は耐えられず反射的に目を瞑って顔を逸らしてしまう。
朔也
朔也
だよな……。これは、卑怯だよな。悪い
ぽんぽんと頭を軽く撫でられる。ゆっくり、目を開けると少し寂しそうに笑う朔也くんが目に入った。
夢叶
夢叶
あ、その……私!
朔也
朔也
何も言うな。ほら、真広が待ってるから帰るぞ
朔也くんに手を引かれる。
朔也
朔也
なあ。お前以上の存在なんて俺にはいない。ずっと、側で見ていてくれるんだろ?だから、どこにも行くなよ夢叶
微かに握ってくる手に力が入ってくる。
不安そうな、朔也くんを安心させる為私も握り返す。
夢叶
夢叶
はい。引っ越しの予定などは無いので、大丈夫ですよ
私の言葉に何故か朔也くんが吹き出して笑う。
朔也
朔也
そうだよな。おまえはそういう奴だった



不安な気持ちで楽屋に戻る。
真広
真広
もう!心配したじゃん!
頬を膨らませた、真広くんが仁王立ちで待ち構えていた。
良かった。ソレイユさん達はもういないみたい。
夢叶
夢叶
真広くん。心配かけてごめんなさい
私は真広くんに頭を下げる。
真広
真広
別に夢叶っちに謝ってなんか欲しくない。だから、顔上げて
優しく肩を叩かれ、顔を上げる。
真広
真広
でも、僕は他のことでちょっとイラっとしたかな。ねぇ、朔也?
私ではなく、朔也くん?どうして?
真広
真広
朔也に変なことされてない?
夢叶
夢叶
変なこと……
さっき触れられた頬が熱くなってくる。そのことを思い出すだけで、目頭が熱くなってきて胸がいっぱいになる。
真広
真広
気に入らない……
夢叶
夢叶
え?
真広くんは強張った笑顔を見せて、私の手を引く。何か、隠してるみたい。
真広
真広
どうしたの?夢叶っち泣きそうじゃん
私の顔を覗き込む様に、両頬を手で包まれる。
夢叶
夢叶
な、泣きません!
真広
真広
そう?でも、元気なさそう。僕が元気が出るものあげる。目を閉じて
朔也
朔也
おい、真広
真広
真広
何?朔也
私に向ける様な優しい声じゃなく、冷たく突き放すよう。
真広
真広
ほら、目を瞑って
私は、少し不安に感じながらも言われた通りにする。
顔の前に何かある?薄っすらと気配を感じる。でも、何もされない。何だろう?唇に優しい風が当たる。
真広
真広
口開けて。はい、あーん
夢叶
夢叶
え、うぐっ!
口に何か押し込められる。サクサクと軽い食感に甘い味が口の中に広がる。
真広
真広
あははっ、目を開けていいよ
夢叶
夢叶
なんれふか!
真広
真広
差し入れのマカロン。甘いもの食べると、気持ちも上がるでしょ?
いい子いい子と小さい子供を可愛がるように私の頭を撫でてくる。
重たいドロドロとした気持ちが、甘さと共に少し薄くなってくる気がした。
朔也
朔也
真広……おまえ
朔也くんが厳しい表情を浮かべる。悲しそうな怒っているような。
真広
真広
朔也だけじゃないから。朔也でも負ける気はしないから
対照的に真広くんはキラキラして、何か吹っ切れたような清々しい表情を浮かべている。
夢叶
夢叶
どうしたんですか?
朔也
朔也
何でもない。もう一個食べろ
夢叶
夢叶
んぐっ!
朔也くんにもマカロンを口に押し込めらる。
真広
真広
僕のも食べてよ。ほら!
それを見て、真広くんがまたマカロンを口に押し付けてくる。まるで、マカロンとキスしているみたい。

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