久しぶりにこんなに走った。息も切れ切れでもう走れない。でも、止まれない!
二人の仕事を邪魔した私は先生失格。
腕を強く掴まれ引き寄せられた。
そのまま、後ろから覆い被さられるように抱きすくめられる。肩とお腹に朔也くんの腕が回され、ぎゅっと私を離さないとでも言うように力が入ってきて少し息が詰まる。
静かでいつもより少し低い声で耳元で、囁かれる。
自分の不甲斐無さなのか、背中から伝わる朔也くんの温もりの所為なのかは、分からないけど手汗が止まらない。
それに、不謹慎だけど少しドキドキしている自分がいて嫌になる。
少し名残惜しそうに腕が離れて、私を解放してくれる。
足音が聞こえてくる。だから、離したのか。
朔也くんに手を引かれ階段をもう一階分上がる。
連れてこられたのは、屋上。太陽が沈みかけ、ピンクともオレンジとも言えない鮮やかな空色になる。周りの建物に反射して、街を染めているようだ。
風が強く、スカートがめくれそうになるのるを押さえる。
確かに言われてみればそうだ。
少しの気まずさを覚えながらゆっくりと、朔也くんを見上げる。
朔也くんが優しく指先で私の頬を撫でる。触れられた所が熱を帯びて熱い。
嫌な感じはしないけど、分からない。目頭が熱くなって泣きそう。
頬に手を添えられる。
申し訳ない気持ちと、泣きそうなほどの安心感で頭がごちゃごちゃになってくる。
その言葉だけで少し救われた。でも、朔也くんは許してくれてもやったことは変わらない。
朔也くんは少し困ったような笑顔を浮かべると、そのままゆっくり顔を近づけてくる。
唇が触れそう。
私は耐えられず反射的に目を瞑って顔を逸らしてしまう。
ぽんぽんと頭を軽く撫でられる。ゆっくり、目を開けると少し寂しそうに笑う朔也くんが目に入った。
朔也くんに手を引かれる。
微かに握ってくる手に力が入ってくる。
不安そうな、朔也くんを安心させる為私も握り返す。
私の言葉に何故か朔也くんが吹き出して笑う。
不安な気持ちで楽屋に戻る。
頬を膨らませた、真広くんが仁王立ちで待ち構えていた。
良かった。ソレイユさん達はもういないみたい。
私は真広くんに頭を下げる。
優しく肩を叩かれ、顔を上げる。
私ではなく、朔也くん?どうして?
さっき触れられた頬が熱くなってくる。そのことを思い出すだけで、目頭が熱くなってきて胸がいっぱいになる。
真広くんは強張った笑顔を見せて、私の手を引く。何か、隠してるみたい。
私の顔を覗き込む様に、両頬を手で包まれる。
私に向ける様な優しい声じゃなく、冷たく突き放すよう。
私は、少し不安に感じながらも言われた通りにする。
顔の前に何かある?薄っすらと気配を感じる。でも、何もされない。何だろう?唇に優しい風が当たる。
口に何か押し込められる。サクサクと軽い食感に甘い味が口の中に広がる。
いい子いい子と小さい子供を可愛がるように私の頭を撫でてくる。
重たいドロドロとした気持ちが、甘さと共に少し薄くなってくる気がした。
朔也くんが厳しい表情を浮かべる。悲しそうな怒っているような。
対照的に真広くんはキラキラして、何か吹っ切れたような清々しい表情を浮かべている。
朔也くんにもマカロンを口に押し込めらる。
それを見て、真広くんがまたマカロンを口に押し付けてくる。まるで、マカロンとキスしているみたい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。