霧雨魔法店。
陰鬱な森の中に佇む西洋風の一軒家の看板には、確かにそう書かれていた。
周囲の木々は伐採されているのか、思いの外日当たりが良い。葉の間を差す光が地面にまだらな影を落とす。
私の住む地域には、高層ビル群が建ち並ぶばかりで自然が少ない。だからか、このひんやりした空気と優しい木漏れ日が珍しくて、少しくすぐったい感じがする。ずっとここにいたいと思えるような…
あたたかな光と魔理沙の手に導かれて、私は魔法店に足を踏み入れた。
「お邪魔します。」
「おう!」
建て付けの悪い扉の奥にある部屋には、これでもかと積み重なった本の山。怪しげな色の薬剤や薬草も点在していて、よくわからないものも多い。足の踏み場もないほどだった。
「あー、すまんな!」
魔理沙は申し訳なさそうにはにかんでそう言う。
「茶を淹れてやるよ!そこの椅子に座りな」
「お気遣いありがとうございます!」
書物を踏まないように慎重に、椅子へと向かう。ロッキングチェアだ。ここは窓際。柔らかい陽光が差して心がホッとする。緩やかに揺動するロッキングチェアも心地よくて、、
「…起きたか?ほれ、紅茶だ。アッサム…?私にはわからん!まぁアリスの茶葉だから、味は保証するぜ!」
この声、
眠い目を擦って、声のする方を見る。魔理沙だ。まだ寝ぼけたままの私を、優しい瞳で見つめている。
「んあ、おはようございます?」
「あぁ、おはよう。」
そうか、私はこの幻想郷?らしき場所に落っこちて、なんやかんやで魔理沙に拾われて今に至る、と。夢にしては出来がいいよなぁ。
「紅茶は好まないか?」
「いえ!いただきますね。」
…美味しい。アリスの茶葉とか言ってたな。ますますこの世界が気になってきた。
「あの、ここって?」
「あぁ、自己紹介がまだだったな!私の名前は霧雨魔理沙。ただの魔法使いだ!」
うおー!ゲームそのままのセリフ、テンションあがるっ!可愛すぎる!おっと、
「私の名前はあなたです!ただの…人間です!」
「おう!よろしくなぁ。ここは幻想郷と言ってな、お前は外の世界から来たんだろう。説明は苦手なんだが、特別だぜ。」
ー幻想郷には、その名の通り、外の世界で忘れ去られたもの、つまり「幻想」となったものがやってくる場所ー
「幻想…郷。」
「今日はもう疲れただろう。お風呂に入って、さっさと寝よう!」
慌てて窓を見ると、外はすっかり暗くなっていた。
私は、幻想になってしまったんだろうか…
ふぅ…お風呂上がりに魔理沙が髪を乾かしてくれた。なんども遠慮したのだが、最終的に私が根負けした。
魔理沙には快活で大雑把なイメージがあったが、思いの外私の髪を梳かす手つきは優しく、壊れ物に触れるようだった。
寝付けない。
夕方に寝てしまったのもあるが、なにより私は今、魔理沙と同じベッドにいるのだ。
魔理沙の金髪は、カーテンの隙間から差し込む月光を浴びて艶めいている。容姿端麗とはまさにこのことか。
こじんまりしたこの魔法店に客間なんてない、とのことで、言われるがまま同じベッドに入ってしまった。
こんな状況で寝れる方がおかしいだろう。
魔理沙は早々に寝息を立て始めて、私のことなど気にしていない様子だった。
簡単に家に人を入れてしまうのもそうだが、人懐っこいというか危なっかしいというか…
羊が一匹、羊が二匹…
月に照らされていた木々のシルエットも闇に沈んだ頃、私はやっと眠りについた。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。