「はぁ、はぁ……」
元の世界に帰るには、博麗大結界を管理する霊夢に聞くのが手っ取り早いとのことで、ツンと上向いた鼻先を赤く染めた魔理沙と2人、真っ白な息を吐き出しながら、博麗神社を訪れようとしている……
のだが、運動がからきしダメな私には神社特有のガタついた長い石段がまるで断崖絶壁のように思える。
昨日、一緒にティータイムを楽しんだあと、多少動きやすい服を誂えてもらったが、着慣れないヒラヒラした、なんとも可愛らしい服に、履き慣れないローファーでは、登れるものもなかなか…なんてのは言い訳に過ぎない。
魔理沙は私の数段先にいる。なんとか追いつかなければ……と再び歩き始める。
「あなたの下の名前ー!そんなんじゃ日が暮れちまうぞー?しょうがないやつだな、よっ、と……」
「わぁっ!」
段を登ろうとした足が宙をかく。目の前に魔理沙のくせ毛がたわんでいる。こうしてみるときれいなまつ毛だ。端正な顔立ちに目を奪われていると、ふと目があった。ふわりと顔を綻ばせた魔理沙は、普段の陽気で大雑把な姿とは違って、私を抱える手は割れ物に触れるように優しい。思えば私は、魔理沙のふとした瞬間に垣間見える優しさに惹かれているのだった。元はただの“推し”であったが、数日の間同じ時を過ごしただけでこうも絆されてしまうとは。“推し”への気持ちとはまた違う気がする。この気持ちは、なんだ……
そんなこんなで、私は今博麗神社の鳥居を目の前にしている。真っ赤な鳥居と寂れた境内。神社をぐるっと囲う木々は、冷え切った木枯らしに枝を嬲らせている。
建物自体は塗りが剥げていたりと、長い歴史を感じる佇まいだが、手入れは行き届いてるようだ。
先ほど霊夢という名を聞いて、レイマリ好きな私としては、内心浮き足立たずにはいられなかったのだが、霊夢らしき人影はどこにもない……。
「霊夢ー?邪魔するぞー!」
「ふぁ…何よ朝っぱらからぁ」
「へへ、おはよう霊夢、そう言わずにちと付き合ってくれよー?」
霊夢は、まだ眠気の残った声で大きなあくびをしながらゆったりと社殿を出てきた。んーっと伸びをして、寝ぼけた目をこする。巫女にしては布の少ない霊夢の服で、伸びなんてされては目のやり場に困る。
「……しょうがないわね、要件は?って、なにその子」
気だるげな黒い瞳に見つめられて、吸い込まれるような感覚があった。普通の美少女に見えて、全てを見透かしているような……さすがは博麗の巫女といったところだろうか。
「わ、私はあなたの下の名前です!」
「魔理沙……あんたまた外の子拾ったのね?まったくお人好しなんだから。あぁ、私は霊夢。よろしく。」
「へへっ!外から人が来るなんて、異変の前触れに違いないだろ!」
2人のかけあいに微笑をこぼしていると、立ち話もなんだから、と社殿に通してくれた。丁重にお茶も淹れてくれて……ここ数日は、魔理沙が淹れてくれた紅茶を嗜んでいたが、日本人の私にはやはり深みのある緑茶の方が口に合うのかもしれない。
あたたかい緑茶を飲みながら、自分の素性を話す。吹きつける木枯らしで冷えた体が緑茶でじんわりとあたたまるのが分かる。ある日突然幻想郷に落ちてきたこと、魔理沙に拾われてしばらく一緒に過ごしていたこと、元に帰る方法を知りたいこと。へぇ、と興味があるのかないのか分からない相槌を打ちながら、霊夢は淡々と、過去の事例を交えて帰る方法を考えてくれた…。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。