「……銀華ちゃん?ツノウサギ?」
大翔は気がついた。
みんなを見守っていた銀華とツノウサギの姿が、にじみはじめていることに。
体が、ゆっくりと、薄くなっていく……。
「どうやらわたしたちも、時間のようです」
「キャキャキャ。タイムアップってやつだな!」
「え?どういうこと……?」
とまどう大翔に、銀華は告げる。
「大鬼門封じは成功し、鬼門はふたたび閉ざされました」
きょとんとするみんなに、さびしげに微笑んだ。
「わたしたちも……地獄にもどらなければなりません」
ツノウサギが翼をゆらす。
「長い旅行だったが……お別れの時間だze!」
「そ、そんなっっ……!」
大翔は首をふった。
みんな、口々に、まくしたてはじめた。
「待った!待った!そんなのないだろう!」総一郎が身を乗り出した。
「どうにかして、地上にいられないの!?」葵がさけんだ。
銀華は微笑み、首をふる。
「わたしたちは、わたしたちの世界に__わたしたちの家に、帰らなければいけません」
「いまさら、なにいってやがんだよ。鬼を封じるんだって、やってきたんだろーが」
ツノウサギがあきれたように翼をすくめる。
「そうだけど、でも……!例外あつかいにしてほしいよう!」悠がぶんぶん首をふった。
「どうにかなんだろ!わがままいって、残ればいいんじゃないのか!?」章吾がうなった。
✾
一方、天国では。
死神と一人の亡者が、酒を飲みかわしていた。
「この酒は本当に美味いな。どこで手に入る?この酒を持ってくるならば願いを一つ叶えてやることもできるが……」
チラチラ、と死神は亡者へ目線をおくる。
「お気に召していただいたようでなによりです!願い、ですか?」
「あぁ。ただしこの酒を必ず持ってくることだ。さて、お前の願いはなんだ?」
「承知しました!そうですね……大翔…私に似た少年がまた困っているようなのでなんとか助けられませんか?」
「死してなお、あの人の子を案ずるか…素晴らしい。やはりお前は天国に来て正解だったな。よかろう…」
✾
「また、来るからよ!」
「……ほんとう?」
「おう!遊びにくるさあ!地上は楽しいって、覚えちゃったからな、キャキャキャキャ!」
笑ってつづけた。
「だからそんな顔、すんじゃねー!」
それで、みんな、自分が、まぶたに涙をためていることに気づいた。
泣きたかった。
でも、ガマンした。
お別れのときに泣くのは、さびしいから。
まぶたをぬぐって、声を張り上げた。
「「「「「またこいよ!」」」」」
「そいじゃ、達者でなあっ!キャーッキャッキャッキャキャッキャッキャ!」
ツノウサギが、みじかい手をぶんぶんとふった。
高笑いとともに、その姿がとけて、ゆっくりと宙に消えて…………
いかなかった。
銀華とツノウサギが、さっきまで消えかけていたことが嘘かのように、もとの姿にもどっていく。
「……へ?」
大翔は目をまたたいた。銀華もツノウサギもわけがわからないという風に、目を丸くしていた。
悠も葵も章吾も総一郎も荒井先生も、目をぱちくりさせている。
沈黙がながれる。
「…どういう、ことでしょうか……?」
「ななななんでなのさあっ!?めっちゃそれっぽいこと言っちゃったじゃん!恥ずかしい〜!」
ツノウサギは翼とみじかい手で真っ赤な顔を必死に隠す。
「まさか……」
総一郎がなにか確信づいたように言う。
「桜井の思いが届いたんじゃないか?」
「そ、そんなことあるぅ!?すっごい感動的だったのに!」悠が言う。
「…ま、まあ、結果オーライってやつじゃない?」葵が口を開く。
「良かったなバカ大翔」章吾が話す。
「ぎ、銀華ちゃん……ほんとに……消えない?」大翔が喋る。
「ええ、どうやらそのようですね、大翔くん!銀華はとてもうれしいです」
「おれも…!おれも嬉しいよ!!良かった……!」
「大翔と銀華嬢、なんかいいかんじじゃ〜ん?そいじゃ、オレ様達はどっか行くか」
「クソ…こういう時は空気を読まんでいいのに……!」
「しょうがないわよ、この前は無理って言ってたけど、今ならいけるし、その方がオモシロ__素敵でしょ?」
「アオイ、今面白いって言いかけてなかった?」
「なんのことかしら?」
「……あれ?帰るんじゃないの?」
「おやおや、不思議ですねぇ」
ショッピングモールの屋上で、青児__青鬼と青髭男爵は不思議そうに首を捻った。
「まあいっか!地上楽しいし!ヒロト達と遊べるし!」
「すっかり人間らしさが染み付きましたね、青鬼様」
「そうかな?でも絆はやっぱり理解できないや」
「ですね」
「……そういえば、あの赤鬼人間、どうなったんだろう」
「あっ」
あとからめちゃくちゃ怒られた。あのときの顔は、間違いなく赤鬼だった。
✾
「そういえば、お前、鬼なんだって?」
「うん、そうだけど…キミに言ったっけ?」
「いや、みてたらわかる」
「わー!さすが章吾!かっくい〜!」
「ねえねえ章吾くん!ボクは?ボクはわかった?」
「私達鬼からすれば章吾さんも人間らしくありませんけどね」
「ハロウィンのときみてえに石化させてやろうか?」
「ねえねえ章吾く〜ん!ボクはボクは?」
「み、宮原…!その……お、お、お、俺と、付き合ってくれないか……!」
「いいわよ?それでどこ行くの?図書館?」
「んぐう……」
「にゃはは!葵ちゃん鈍すぎにゃ!」
「?」
「見てて飽きないよう」
「ふ、楓子さんっ!今度旅行行きませんかっ…!?」
「いいですね〜!どこ行きます?」
「キャキャキャッ、”レンアイバナシ”って楽しいんだな!」
「あらシロさん。やっと気づきました?」
「銀華姉は話のタネじゃない?」
「なっ……何を言うの!?」
「銀華姉顔真っ赤〜!赤鬼みた〜い!大翔〜!」
「ちょ、ちょっと!?青児!?」
「ぎぎぎ、銀華ちゃんっ!?」
びっくりしながら、大翔は思った。やっぱり、鬼と人は通じ合えるんじゃないのか、と。
牛鬼や馬頭鬼などの下級の鬼達だって、ひょっとすればコミュニケーションが取れるかもしれない、と。
「…よし!無事高校生になったし、今から全員で遊びに行くぞ!」
「「「「「「おう!!」」」」」」












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!