最初に気づいたのは,クラスだった
「最近さ、スンミン変わったよね」
昼休み。
誰かの小さな声。
「前より静かじゃない?」
「でも、元気そうじゃね?」
そう。
元気そうだった。
笑わなくなったわけじゃない。
誰かと話さなくなったわけでもない。
ただ――
必ず、リノの視界にいる。
席。
廊下。
移動教室。
距離は一定。
近すぎない。
でも、遠くもない。
「偶然じゃないよな、あれ」
「え、あの二人仲悪くなかった?」
スンミンは、その声を聞いていた。
でも、振り向かない。
リノが、後ろにいるのを知っているから。
呼ばれる。
それだけで、体の力が抜ける。
説明はいらない。
歩き出すタイミングも同じ。
それを見ていたクラスメイトが、眉をひそめる。
「……付き合ってんの?」
「いや、あの空気は違う」
違う。
スンミン自身が、一番分かっている。
これは恋人じゃない。
でも、友達よりずっと深い。
移動中、スンミンが足を止める。
リノは少し考えてから答えた。
その言葉に、スンミンは詰まる。
困っていない。
むしろ――
口から、自然に出た言葉。
自分で言って、少し驚く。
リノは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
喜びもしない。
でも、否定もしない。
ただ、それだけ。
放課後。
下校途中。
知らないクラスメイトに呼び止められる。
「スンミンさ」
「最近、リノとばっかじゃね?」
言い方は軽い。
でも、探る目。
「ふーん……」
その瞬間。
リノが、間に入る。
声は低く、穏やか。
でも、逃げ場がない。
「いや、特に……」
笑っていない。
怒ってもいない。
ただ、境界線を引いただけ。
相手はそれ以上、何も言えなくなった。
歩き出してから、スンミンが小さく言う。
正直すぎる答え。
淡々とした声。
スンミンは、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
守られている。
でも、閉じ込められてはいない。
――逃げられるはずなのに。
逃げたいと思わない。
家の前。
リノが聞く。
“いい?”
ちゃんと、選択肢を残してくる。
スンミンは、少し考えてから答えた。
それだけ。
帰宅後。
ベッドに倒れ込んで、天井を見る。
周りは言うだろう。
おかしい。
普通じゃない。
依存だ。
でも。
こんなに静かで、
こんなに安定していて、
こんなに安心できる関係を、
他に知らない。
スマホが震える。
【無事着いた?】
短いメッセージ。
【うん】
すぐに返す。
【なら、今日はそれでいい】
それだけ。
束縛もしない。
命令もしない。
なのに――
世界の中心が、そこにある。
スンミンは、目を閉じて思った。
これはもう、
誰かに止められて終わる話じゃない。
静かに、
選び続けて、
深く沈んでいく物語だ。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。