第12話

溶ける前に
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2026/01/02 12:06 更新
朝から、教室の空気がそわそわしていた。
机の上に置かれた紙袋、意味深な笑顔、
いつもより少し高い声。

——今日は、バレンタイン。

スンミンは鞄の中を、無意識に確認した。
小さな箱。
何度も迷って、やっと決めたもの。
リノ
リノ
前の席のリノは、いつも通りの顔で座っている。
変わらない。
何も知らないみたいに。

それが、少しだけ腹立たしい。

授業中、何度か視線を感じた。
振り向くと、リノがこちらを見ていて、
目が合った瞬間、ふっと逸らされる。

——ずるい。

声だけの夜も、
泊まったあの夜も、
なかったみたいな顔をするくせに。

昼休み、友達に囲まれているリノを見て、
スンミンは一歩引いた。

女の子が笑いながら、
小さな袋を差し出すのが見えた。

胸の奥が、きゅっと縮む。
スンミン
スンミン
別に、何でもない。
そう思おうとしたのに、
視線だけは、どうしても離れなかった。

放課後。
スンミンは人気のない廊下で立ち止まっていた。

帰るタイミングを、完全に逃している。
リノ
リノ
スンミン
後ろから、聞き慣れた声。

振り向くと、リノが立っていた。
少しだけ息が切れている。
リノ
リノ
先,行ったかと思った
スンミン
スンミン
…まだ
沈黙。
夕方の光が、床に長く伸びている。

リノは一度、視線を逸らしてから言った。
リノ
リノ
今日さ
心臓が、嫌な音を立てる。
リノ
リノ
バレンタインじゃん
スンミン
スンミン
…うん
それ以上、言葉が続かない。
リノ
リノ
昼,みてた?
スンミン
スンミン
何を
リノ
リノ
俺が,貰ってるとこ
スンミンは,思わず俯いた。
スンミン
スンミン
別に…
リノ
リノ
顔,分かりやすすぎ
からかうみたいな声。
でも、目は真剣だった。
リノ
リノ
妬いた?
一瞬、言葉に詰まる。

否定したかった。
でも、嘘になる。
スンミン
スンミン
…ちょっと
そう答えた瞬間、
リノが息を止めたのが分かった。
リノ
リノ
それ,反則
スンミン
スンミン
何が
リノ
リノ
可愛すぎ
心臓が、完全に追いつかなくなる。

リノは、スンミンの鞄をちらっと見た。
リノ
リノ
それは?
スンミンは迷ったけど、
観念して、鞄から箱を出した。
スンミン
スンミン
あげるつもりだった…
リノの目が、はっきり揺れる。
リノ
リノ
俺に?
スンミン
スンミン
他に誰がいるの
小さく、笑う。

リノは箱を受け取って、
しばらく開けなかった。
スンミン
スンミン
開けないの?
リノ
リノ
今,開けたら
一歩近づく
リノ
リノ
顔,やばくなりそう
距離が近い。
触れていないのに、熱が伝わる。
リノ
リノ
昨日の夜もさ
リノが,低く続けた
リノ
リノ
ずっと思ってた
スンミンの喉がなる
リノ
リノ
声だけで,あんなになるなら
一瞬、間が落ちる。
リノ
リノ
こういう日は,どうなんだろって
スンミンは、逃げずに見た。
スンミン
スンミン
溶ける前に,言って
リノは、ほんの少し笑って、箱を胸に抱えた。
リノ
リノ
好きだよ
それは告白というより、
確認みたいな言い方だった。

スンミンは、ゆっくり息を吐く。
スンミン
スンミン
…知ってる
リノ
リノ
それ,今言う?
スンミン
スンミン
だって
視線を逸らして、続ける。
スンミン
スンミン
俺もだから
リノは何も言わなかった。
ただ、少しだけ距離を詰めて、
頭を下げる。

額が、触れそうで触れない。
リノ
リノ
今日は,これで我慢する
その声が、やけに優しかった。
帰り道、手は繋がなかった。
でも、肩がぶつかるたび、
お互いに何も言わず、笑ってしまった。

バレンタインの甘さは、
チョコよりもずっと、
胸の奥に残っていた。

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