お姉さん)「好きな人おるって言うたやん? その人のことやねんけどな」
お姉さん)「手っ取り早く言うけど、もう死んどんねん、そいつ」
お姉さん)「なんつーか病んどったからなあ。死んでもた」
お姉さん)「ここで一緒に暮らしとった。BARはそいつと一緒に初めてんよ」
お姉さん)「親友やったし、同時に恋人やった」
お姉さん)「たったそんだけのありきたりな話や」
僕)「なんで死んじゃったんですか?」
お姉さん)「さあな。遺言はあったけど、ほんまかどうかわからんし」
お姉さん)「まあ、そいつが言うには、恐かったんやて」
お姉さん)「うちを幸せにできる気がせんって」
お姉さん)「想像つくんかどうか知らんけど、うちもそいつもろくな家庭で育ってないねんよ」
お姉さん)「うちは親から虐待受け取ったし、そいつは親に捨てられてたし」
お姉さん)「十六ん時に会って、似たもの同士やからか気が合って」
お姉さん)「二人で金貯めて家借りて、店も出した」
お姉さん)「けっこう上手く行っとってん」
お姉さん)「あいつはなにが恐かったんやろなあ……幸せにしてくれんでも、一緒におってくれるだけでよかったんに」
お姉さん)「あいつの保険金でこの家は買い取った。なんか、あいつが帰ってきたらって考えるとな」
お姉さん)「ありえへんのやけど」
僕)「……まだ好きなんですか?」
お姉さん)「どやろな。うち残して勝手に死んだアホやから、まだ好きか言われたらそうでもないかもしれん」
お姉さん)「やけど忘れられへんねん。あいつのこと」
それは十五歳の俺には身に余る
とても重たい過去だった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!