第18話

10日目−2
11
2025/03/19 08:00 更新
……ん
美郷 栞
……あ
起きた。
もちろん、時間なんて止まるはずもなかった。
分かりきってたのに。

……とりあえずナースコールを押す。
ぱたぱたと、思ってたよりも早く看護師さんが来た。
看護師
とりあえず脈と血圧測りますね
看護師
今担当医も来られますので
寝起きで悪いけど、とてきぱきとルーティーンをこなした。
さすがだ。
そういえば陸、水とかいるかな。
多分今日はベッドから出られないだろうし、買ってくるか。
美郷 栞
ちょっと、水買ってきます
看護師
あ、分かりました
陸はまだぽーっとしている。
脳が活性化してないみたい。
いつも凛と? キリッと? してるから、ちょっと新鮮。







わたしが自販機で水を買って戻ると、診察は終わってた。
ぺこっと会釈だけして、担当医さんとすれ違う。
ツンとした消毒液の匂いがわたしの鼻を突いた。
美郷 栞
……おはよう
朝が来てしまった。
そんな顔をしていて。
美郷 栞
うん、おはよう
きゅーっと、左胸の辺りが苦しくなって。
今視界に映ってるこの人に、もう朝は来ないと思うと。
ふと目を逸らしたくなる。
水、ありがと
美郷 栞
あ、うん
気まずい、というか。
もっと、優しくできるはずなのに。
ぎこちなくなる自分がどうにも好きになれない。
あ、そうだ
ぴら、と陸は見知った紙を取り出した。
最後の分、しよ
美郷 栞
……うん
さいご、か。
そうだよね。
その通り。



























栞の口から言ってほしい
ぐ、っと陸の顔が一瞬歪んだのをわたしは見逃さなかった。































栞がどう思ってるのかだけ
教えてほしい
と、陸が自分を指差してそう言った。






















好き?
愛おしい?
愛してる?





……ううん、全部違う。
じゃあ何?
そう考えている間にも、陸の顔色は段々と悪くなっていく。


























































美郷 栞
っ……





























美郷 栞
……大嫌い
……!?





























美郷 栞
……って、言えば……ッッ
美郷 栞
楽に、別れられたのかなぁ……っ?
……ッッ
もうやだよ。
陸の顔はろくに映ってないし、視界はぐちゃぐちゃ。
こんな顔、見せたくなかったな。


























































はっと気が付くと、陸が左胸を押さえて丸くなっている。
美郷 栞
待っ……陸……!
慌ててナースコールをした。
どうしたのかと聞かれても喉につっかえて何もいえない。


「 大変なんです 」


精一杯、今出せる声の限り絞り出した声は、事の重大さの一ミリも伝わらないものだった。






















ぱたぱたと何人もの足音が聞こえて、ノックもせずにドアが開いた。
看護師
大丈夫ですか!?
美郷 栞
……ぁ、ぁ……
声が上手く出せない。
なんで。
なんで。
なんで?
ばたばたと、病室は一気に騒がしくなる。
担当医さんの顔も険しくて。
立ち尽くしてたわたしの耳には、するりと
「 もう危ない 」
の一言しか入ってこない。
危ない?
何が?
誰が?
美郷 栞
……ッッ!
止めどなく流れる涙を拭いながら、また陸を見た。
繋がれた管は多くて、目を逸らしたかった。
美郷 栞
……ぁの、
看護師
はい
美郷 栞
陸、は……
看護師
……もう、意識はないです





_____まだ心臓は動いています。





ああ……そうなんだ。

もう声も聞けないんだ。

もう笑ってくれないんだ。

まだ空は蒼いのに。

まだ太陽は高いのに。

もう目は開けてくれないんだ。

そう、呆然と。
一定に鳴る機械音を聞き流しながら。
看護師さんと、担当医さんと、その時を待った。































































































































ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……







……
美郷 栞
……ッ!?
しお……り、
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
美郷 栞
待って陸、喋らないでいいから
ううん……いわせて、ほしくて
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……





























……あいしてるよ、栞
美郷 栞
……!
美郷 栞
うん……っ、わたしも
ピッ…………ピッ…………ピッ………ピッ…………
















美郷 栞
あいしてるよ……ッ
ピーーー…………………………



















































































































































美郷 栞
〝 雅 〟

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