起きた。
もちろん、時間なんて止まるはずもなかった。
分かりきってたのに。
……とりあえずナースコールを押す。
ぱたぱたと、思ってたよりも早く看護師さんが来た。
寝起きで悪いけど、とてきぱきとルーティーンをこなした。
さすがだ。
そういえば陸、水とかいるかな。
多分今日はベッドから出られないだろうし、買ってくるか。
陸はまだぽーっとしている。
脳が活性化してないみたい。
いつも凛と? キリッと? してるから、ちょっと新鮮。
わたしが自販機で水を買って戻ると、診察は終わってた。
ぺこっと会釈だけして、担当医さんとすれ違う。
ツンとした消毒液の匂いがわたしの鼻を突いた。
朝が来てしまった。
そんな顔をしていて。
きゅーっと、左胸の辺りが苦しくなって。
今視界に映ってるこの人に、もう朝は来ないと思うと。
ふと目を逸らしたくなる。
気まずい、というか。
もっと、優しくできるはずなのに。
ぎこちなくなる自分がどうにも好きになれない。
ぴら、と陸は見知った紙を取り出した。
さいご、か。
そうだよね。
その通り。
ぐ、っと陸の顔が一瞬歪んだのをわたしは見逃さなかった。
と、陸が自分を指差してそう言った。
好き?
愛おしい?
愛してる?
……ううん、全部違う。
じゃあ何?
そう考えている間にも、陸の顔色は段々と悪くなっていく。
もうやだよ。
陸の顔はろくに映ってないし、視界はぐちゃぐちゃ。
こんな顔、見せたくなかったな。
はっと気が付くと、陸が左胸を押さえて丸くなっている。
慌ててナースコールをした。
どうしたのかと聞かれても喉につっかえて何もいえない。
「 大変なんです 」
精一杯、今出せる声の限り絞り出した声は、事の重大さの一ミリも伝わらないものだった。
ぱたぱたと何人もの足音が聞こえて、ノックもせずにドアが開いた。
声が上手く出せない。
なんで。
なんで。
なんで?
ばたばたと、病室は一気に騒がしくなる。
担当医さんの顔も険しくて。
立ち尽くしてたわたしの耳には、するりと
「 もう危ない 」
の一言しか入ってこない。
危ない?
何が?
誰が?
止めどなく流れる涙を拭いながら、また陸を見た。
繋がれた管は多くて、目を逸らしたかった。
_____まだ心臓は動いています。
ああ……そうなんだ。
もう声も聞けないんだ。
もう笑ってくれないんだ。
まだ空は蒼いのに。
まだ太陽は高いのに。
もう目は開けてくれないんだ。
そう、呆然と。
一定に鳴る機械音を聞き流しながら。
看護師さんと、担当医さんと、その時を待った。
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
ピッ…………ピッ…………ピッ………ピッ…………
ピーーー…………………………












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!