兄達の話を聞きながら、実琴はあまり納得がいっていないような表情で首を傾げた。
その日の夜。早起きだったせいで疲れてしまったのか早々に寝てしまった蘭を見届けてから、音瀬兄弟達は揃って談話室に集まった。話題はもちろん、朝の件について。あまりにも衝撃的な出来事であるし、蘭についての謎が大きく深まったのは間違いない。それに、今までなんやかんやで後回しにしてしまっていた蘭の出自について話し合ういい機会でもあった。
というわけで一番最初に出た最もあり得そうな可能性が『元プロピアニスト説』なのだが…。
澄智の投げかけで、一気に視線が入間に注目する。それに少し気まずそうに目を数度泳がせたが、溜息と共に髪を掻き上げた入真はどこか躊躇うようにゆっくりと口を開いた。
カタカタと膝の上に乗せたパソコンを操作し始めた入真は、しばらくしてみんなに見えるように画面を向けた。そこに映っていたのはいくつものフォルダー。そして今開いているもののタイトルには『桜之宮 クリス』と書かれていた。
カーソルを動かしてあるフォルダーを開くと、すぐにその動画は再生された。1音目だけですぐに記憶が反応する。ラ・カンパネラだ。
いろんな角度でクリスを映す動画は音質も画質も最高ランクで、まるで臨場感溢れるコンサートホールにいるかのような錯覚さえ覚えてしまいそうになる。それはあの時の蘭の演奏にも通じるものがあった。それ以上にクリスの演奏は圧倒的で、彼女がラ・カンパネラを弾けば、鍵盤に触れるだけで星が降るようにキラキラと瞬いた。それはまるでピアノの音色そのものが宝石のように煌めいているようだった。その演奏を聴き入るうちに、知らず知らずのうちに息を飲む。まるで自分がその場にいるかのように感じる程迫力ある演奏。録画でこのレベル。圧巻の一言に尽きる。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。