呆然とする4人の前でゆっくりと手を離した蘭は長い吐息を吐き出し、そして恐る恐るという風に小雨と実琴を見上げた。
困惑の色を浮かべたまま呆然とする2人に蘭は小首を傾げる。まるで状況が飲み込めていないといった様子で不思議そうに首を傾げる蘭に対して、小雨と実琴は未だ何が起こっているのか全く理解できずに口をパクパクと意味もなく動かすことしかできない。
入真の姿に気づくや否や、必死に弁解し始めた蘭に、入真は更に混乱を極めた。
圧倒的。完璧。言語化不可能の領域。最早それ以上の形容詞が見つからない。ただ確かなのは目の前で起きている光景は到底信じられないということだ。現実を受け入れようと脳内が拒んでいる。だが確かに耳に残っているのは紛れもない旋律であり紛れもない事実なのだ。
考えれば考えるほど思考の沼にハマっていくような感覚から、蘭の不安気な声で我に返った。いつの間にか目の前に来ていた蘭は眉を下げながら上目遣いで此方を窺っていた。その表情を見た瞬間、胸の奥底から込み上げてくる何かを感じたがそれを押し殺すようにして口を開いた。
キラキラと目を輝かせて期待に胸を膨らませたように笑う蘭は無邪気にそう告げる。そんな蘭の笑顔を見つめていると自然と口元が綻んだ。この小さな天使のような少年が自分の為に精一杯努力しようとしていることへの感謝と喜びで心が満たされていく。
それでも無視できない程大きな、何とも言えない焦燥感と疑問が頭の片隅で燻って離れなくて…。気づいたら入真はそれを口に出していた。
自信満々の「きいたことない!」という蘭の言葉に、入真は張り詰めていた息を一気に吐き出した。見守っていた面々がズッコケているのも尻目に見える。
照れたように笑う蘭の手を引いて夏が部屋から出ていく。まだ若干放心している実琴と小雨の頭をコツンと叩いた入真は苦笑を漏らしながら「朝飯行こうぜ」とだけ言い残して部屋を後にした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!