元気よく返事をし、先に行ってしまった小雨と夏を追いかけて行った実琴を見送った入真は、蘭の方を振り向く。
差し出された手を握り返しながら、蘭はちらっと入真の顔を覗き見る。その顔がやけに不安気で、入真はもう片方の手で蘭のふわふわの黒髪を撫でた。
優しげな桜色の瞳に涙の膜が張る。それが零れ落ちないように必死に堪えている姿に、入真は思わず強く蘭を抱きしめた。あの言葉でここまで悲しませるなんて、なんて愚かなことをしてしまったのだろうか。蘭にはずっと春の陽だまりのような、この世の汚いところなんて何も知らないような純粋で健気なままでいてほしい。だからこそ入真の独占欲に囚われて、自由を奪ってしまうことが何よりも怖かった。
それでも、蘭には自由に夢を追いかけて欲しい。自分の気持ちより蘭の笑顔を守りたい。入真は腕の中の温かい体を、もう二度と離さないと誓うようにぎゅっと抱き締めた。
入真の胸の中に顔を埋めてポツリと呟いた言葉に、心臓が大きく跳ねる。抱きしめたまま固まってしまった入真に気づくことなく、蘭は続ける。
間髪入れずに否定すれば、蘭はびっくりしたように目を丸くしてこちらを見上げた。その瞳はまだ少し潤んでいるが、驚きが勝ったおかげか涙は引っ込んだらしい。そして入真を見上げると、嬉しそうに微笑んだ。
そう言って、蘭は入真の首に腕を回してギュッと抱きついた。体温が直に伝わって心地良い。蘭は安心したように目を細め、入真の首元に擦り寄った。
いつの間に背後に立っていたのか、どこか圧の感じる笑顔でエプロンを着て右手にお玉を持った澄智が静かに仁王立ちしていた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。