駅で南さんに会った。
南さんからすればお店でしか
会うことのない後輩としか思われていないだろう。
テスト期間だと嘘をついてお店に通い詰めていたけど
テスト期間だという口実は使えなくなった今
半ば強引に交換した連絡先だけが南さんとの接点だった。
会う口実はないかと悩んでいたところで
偶然会えたことで浮かれる心を
見透かされないよう普段通りを装った
どうやら家に帰るらしい。
オカマから聞いた話では店に泊まることも
多いみたいだけど定期的に家に帰ることがあるって
言っていたからきっと今日もその日なのだろう。
オカマから聞いた南さんの家庭の事情からして
きっと帰りたくて帰っているわけではないだろうに
嫌な顔ひとつ見せずにそう答えてニコリと笑ってみせる
その無邪気な笑顔の裏にどんな辛い闇を
抱えているのだろうとまだ手を差し伸べるには
程遠い関係性に深いため息を吐きたいような気持ちになった
今あの家の扉の向こうに父親がいるんだろうか…
母親も暴力をふるっているらしいし
もしかしたら母親もいるかも…
このまま家の中に送り出していいのか…?
これからあの扉の向こうで酷い目にあうかも…
ニコリと笑ってみせる南さんの顔を見た後
チラリと家の扉に目を移した
今日は朝までこの家で寝るのか…?
それとも店に戻って泊まる…?
俺に何かできることは…?
もしこのまま会えなくなったら…?
止めなくていいのか…?
なんとなくこのままこの人を
家の中に入れてはいけない気がした
グルグルと頭の中で何かしなければと考えすぎた。
俺の考えていることを察知したのか
俺の言葉に被せて早口でそう言うと
逃げるように家の中へと入ってしまった。
嫌われたか…?
誰だって踏み込まれたくない事だってある。
俺が南さんを心配して何かすることで助けたいと
思うことは南さんからすれば
余計なお世話なのかもしれない…
踏み込みすぎたか…?
でもオカマから話を聞いた以上
何もしないわけにはいかない…
その前やな俺に何かできることなんてあるのか…?
思わず出てしまったため息と共にその場にしゃがみ込んだ
そんなことをモヤモヤと考えていると
いきなり目の前の家の扉からガンッと
何かがぶつかったような音がした。
もしかして家の中で何かされてるんじゃ…
そんな不安がよぎって思わず
扉のドアノブに手をかけそうになった
いや…落ち着け…
今俺が家の中に入って何ができる…?
無防備にそんなことはできない
余計に南さんを傷つけてしまうことになるかも…
扉の向こうからかすかに男の声が聞こえた
きっと例の父親だろう…
少ししてその声は聞こえなくなった
またしばらくして扉の向こうから
はっきりと聞こえた声に
咄嗟にその場を離れて隠れた
扉から出てきたのはやはり
この間南さんの腰に手を回していた男。
メガネをかけた賢そうな雰囲気で
どこか不機嫌さが顔に出ている細身の男だった
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!