翌日。
この日は、テストの関係でいつもより早く学校から帰宅できた。
家に帰っても、特に何もすることがなくてただただスマホを触っていた。
そんな時にタイミングよくスマホの画面が着信画面に切り替わる。
都合のいいタイミング、都合のいい相手からの電話だったからか、少し頬が緩んでしまう。
画面に表示される「ミナ」に応えるために電話に出た。
はずだったのに、
期待していた声色とは正反対。
胸元に一気に緊張が走る感覚があった。不自然に警戒心が宿る。
なんで、姉ちゃんのスマホから湊崎さんの声がするの…
脳が処理しきれないうちに、私の口は「はい」と「どうしましたか」を口走っていたらしく、
ぼーっとした脳みそに「名井さんが倒れた」という言葉だけが残された。
その言葉の後に、湊崎さんが私に何を聞いたかなんて覚えていない。
覚えているのは車のエンジンをかけたこと。たった今バイト先の駐車場に着いたということだけ。
バイト先に慌てて乗込む私に気づいたナヨンさんと湊崎さん。
連絡は貰っているはずなのに、「何故来たんだ」と言わんばかりの顔。
案の定ナヨンさんは顔だけでは我慢ならず、私に質問をしてきた訳だが、
そんなこと、今の私からしたら二の次だ。
慌てふためいているうちに、本来聞けるはずだった声の持ち主を見つける。
ナヨンさんと湊崎さんに「話は後で」のジェスチャーを飛ばし、姉ちゃんの側へ移動する。
裏のソファに横になり、おでこに手を当てて熱に魘されているようだった。
見た目以上に熱に体を蝕まれているようで、少しばかり不安になった。
その熱を確かめるように、自分のおでこと姉ちゃんのおでこを付ける。
確かめる必要性なんてあるはずないのに、
苦しんでいる彼女を1人きりにさせないという思いで、
…いや、ただ単純にくっつきたい理由作りのためだけだったのかもしれない。
病人には申し訳ないが、照れた赤面をもう少し赤色に染めたくて、
妙なからかいも1つお見舞いしてあげることにした。
結果は言うまでもなく、真っ赤っかである。
姉ちゃんの荷物をまとめようとした時だった。
どこから話を聞いていたか分からない湊崎さんが、話を割って入ってくる。
毎回厄介なタイミングで現れるなと心の内で呟きつつ、私は若干の睨みを効かせる。
…なぜ睨みを効かせたか。
正直、自分を守るためだった。無意識だった。
無意識の領域から、どんどん意識の領域へ寒気が広がる。
それがあまりにも急で、不意打ちで、自分に今何が起きているかなんて、理解しきれなかった。
けれども、これだけは、嫌でもわかる。
湊崎さんとの会話に『恐怖』していること。
単調に並べられる関西弁。
傍から聞けば何の圧力もなければ、怖いなんて感情覚えるはずのない会話。
__(あれ、なんだこの感じ。)
震えが止まらなかった。
その後は、湊崎さんの「ほな」の二言でその場が終わる。
姉ちゃんの心配そうな顔が残る。
次に私の記憶が繋げられた場面は、レジ締めをするナヨンさんと、
自分が掃除道具を片手に、店内の16時52分の時計を見つめている時だった。
この時は本当に分からなかったんだと思う。
『分からない』が自分の中で驚くほどしっくりくる正解だったのだと思う。
記憶がこんなにも切り取られたように記録されたのも始めての出来事で、尚更。
生きてきた中で、最も不思議な違和感だった。
けれども、
時間が経過するのと、切り取られた記憶とで、薄ら思い出す光景があったような気もする。
『思い出す』のは、湊崎さんの目。
と、重なった別の姿。
今だからわかる。
突然恐怖を感じたのも、震え始めたのも、言葉を返せなくなったのも、否定してはならないと感じたのも、
過ぎったものは、過去の姿。
姉ちゃんに話して、乗り越えたと思われた
7歳の頃の自分。
体と脳に染み込んでしまった洗脳が、この日の全てだった。
そしてこの日をきっかけに、『また』どこか人を恐れるようになってしまっていた。
それともうひとつ。
唯一、この恐怖を忘れさせてくれた人に、
依存したいという気持ちが芽生え始めていた。
そんなことも知らないぐちゃぐちゃな私は、
翌週、
ようやく"その人"と連絡を取ることができた。
連絡を取れた、矢先に自分を裏切ったのは相手方。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。