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第17話

ep.17
486
2026/01/21 13:54 更新



翌日。



この日は、テストの関係でいつもより早く学校から帰宅できた。



家に帰っても、特に何もすることがなくてただただスマホを触っていた。



そんな時にタイミングよくスマホの画面が着信画面に切り替わる。



都合のいいタイミング、都合のいい相手からの電話だったからか、少し頬が緩んでしまう。




画面に表示される「ミナ」に応えるために電話に出た。



はずだったのに、


you
もしもし?どうした
湊崎紗夏
湊崎紗夏
あ、あなたさん?お疲れ様
湊崎紗夏
湊崎紗夏
湊崎です。名井さんの電話借りてます。
突然ごめんな?



期待していた声色とは正反対。



胸元に一気に緊張が走る感覚があった。不自然に警戒心が宿る。



なんで、姉ちゃんのスマホから湊崎さんの声がするの…



脳が処理しきれないうちに、私の口は「はい」と「どうしましたか」を口走っていたらしく、



ぼーっとした脳みそに「名井さんが倒れた」という言葉だけが残された。



その言葉の後に、湊崎さんが私に何を聞いたかなんて覚えていない。



覚えているのは車のエンジンをかけたこと。たった今バイト先の駐車場に着いたということだけ。



you
ハッ…ハッ…

you
っ、ねえちゃんっ!
湊崎紗夏
湊崎紗夏
うぉっ、あなたさん?!
ナヨン
ナヨン
あなた?!なんで、
you
ハッ…み、名井さんは?
ナヨン
ナヨン
裏で休んでるわよ
ナヨン
ナヨン
てか、なんで知って…
湊崎紗夏
湊崎紗夏
わざわざ来てくれたんか!
ごめんなぁ〜私が連絡したからやんな?
you
え、そ、そうですけど、
you
だって、名井さんの携帯で…

ミナ
ミナ
え…あなた?
you
っ!姉ちゃん!



バイト先に慌てて乗込む私に気づいたナヨンさんと湊崎さん。



連絡は貰っているはずなのに、「何故来たんだ」と言わんばかりの顔。



案の定ナヨンさんは顔だけでは我慢ならず、私に質問をしてきた訳だが、



そんなこと、今の私からしたら二の次だ。



you
大丈夫、なの?
ミナ
ミナ
ううん。熱出してもうた。
ミナ
ミナ
さっきまでフラフラでたってるのもやっとでな…



慌てふためいているうちに、本来聞けるはずだった声の持ち主を見つける。



ナヨンさんと湊崎さんに「話は後で」のジェスチャーを飛ばし、姉ちゃんの側へ移動する。



裏のソファに横になり、おでこに手を当てて熱に魘されているようだった。



ミナ
ミナ
で、なんで、あなたここにおるん?
you
湊崎さんから連絡あって
you
それも姉ちゃんの携帯で。
貸したの、覚えてない?
ミナ
ミナ
あぁー。貸したかも。もうよう覚えてへんのよ
you
だいぶ熱出てるんじゃない?
……ほら、あっつ。
ミナ
ミナ
ちょ、かぜうつるてっ//
you
ん?なに?
ミナ
ミナ
なにちゃうしっ//
you
あ。…さては今更意識してんの?
ミナ
ミナ
わ、笑わんといて。
you
ごめんて 笑



見た目以上に熱に体を蝕まれているようで、少しばかり不安になった。



その熱を確かめるように、自分のおでこと姉ちゃんのおでこを付ける。



確かめる必要性なんてあるはずないのに、



苦しんでいる彼女を1人きりにさせないという思いで、



…いや、ただ単純にくっつきたい理由作りのためだけだったのかもしれない。



病人には申し訳ないが、照れた赤面をもう少し赤色に染めたくて、



妙なからかいも1つお見舞いしてあげることにした。



結果は言うまでもなく、真っ赤っかである。



you
早退するでしょ?送るよ。
ミナ
ミナ
え、そんなええよ。余計にうつしてまう。
you
私が来た意味無くなるよ 笑
ミナ
ミナ
ええよほんまに。会いに来てくれただけありがたいねんから。
you
とやかく言わない〜
荷物勝手にもってくよ?
ミナ
ミナ
ほんま?じゃあ、お言葉に甘え…

湊崎紗夏
湊崎紗夏
名井さん帰りはります?
せやったら送りますよ。
ミナ
ミナ
え、
you
え。

ミナ
ミナ
気持ちは有難いんですが、あなたさんが送ってくれるって…
湊崎紗夏
湊崎紗夏
あ〜あなたさんに電話で、"ナヨンさんの手伝い"はお願いしたんやけど〜
湊崎紗夏
湊崎紗夏
ほら、"仕事中"の急病人さんは、
社員が面倒みなあかんからな?笑



姉ちゃんの荷物をまとめようとした時だった。



どこから話を聞いていたか分からない湊崎さんが、話を割って入ってくる。



毎回厄介なタイミングで現れるなと心の内で呟きつつ、私は若干の睨みを効かせる。





…なぜ睨みを効かせたか。



正直、自分を守るためだった。無意識だった。



無意識の領域から、どんどん意識の領域へ寒気が広がる。



それがあまりにも急で、不意打ちで、自分に今何が起きているかなんて、理解しきれなかった。



けれども、これだけは、嫌でもわかる。



湊崎さんとの会話に『恐怖』していること。



you
…出勤してない私が送迎した方が効率いいんじゃないですか。
湊崎紗夏
湊崎紗夏
せやから、"出勤して"ってお願いしたやん?
湊崎紗夏
湊崎紗夏
あんまり焦っとったから話飛んでたん?自分 。笑
湊崎紗夏
湊崎紗夏
…それに、うちよりあなたさんがお店におった方がええんとちゃう?
湊崎紗夏
湊崎紗夏
あなたさんはここでいっちゃんようできる、
湊崎紗夏
湊崎紗夏
アルバイトさん、やもんな?



単調に並べられる関西弁。



傍から聞けば何の圧力もなければ、怖いなんて感情覚えるはずのない会話。






__(あれ、なんだこの感じ。)






震えが止まらなかった。






その後は、湊崎さんの「ほな」の二言でその場が終わる。



姉ちゃんの心配そうな顔が残る。












次に私の記憶が繋げられた場面は、レジ締めをするナヨンさんと、



自分が掃除道具を片手に、店内の16時52分の時計を見つめている時だった。



ナヨン
ナヨン
あなた、今日はありがとうね。
you
………。
ナヨン
ナヨン
…あなた?
you
ぁ。はい、いいえ。あ、えっと…
you
すみません。
ナヨン
ナヨン
…大丈夫?
you
…わかんないです。
ナヨン
ナヨン
湊崎さんと話してからずっとその調子よね
ナヨン
ナヨン
何かあった?
you
…分かりません。
you
…すみません。



この時は本当に分からなかったんだと思う。



『分からない』が自分の中で驚くほどしっくりくる正解だったのだと思う。



記憶がこんなにも切り取られたように記録されたのも始めての出来事で、尚更。



生きてきた中で、最も不思議な違和感だった。



けれども、



時間が経過するのと、切り取られた記憶とで、薄ら思い出す光景があったような気もする。



『思い出す』のは、湊崎さんの目。



と、重なった別の姿。



今だからわかる。



突然恐怖を感じたのも、震え始めたのも、言葉を返せなくなったのも、否定してはならないと感じたのも、



過ぎったものは、過去の姿。



姉ちゃんに話して、乗り越えたと思われた



7歳の頃の自分。



体と脳に染み込んでしまった洗脳が、この日の全てだった。



そしてこの日をきっかけに、『また』どこか人を恐れるようになってしまっていた。



それともうひとつ。



唯一、この恐怖を忘れさせてくれた人に、



依存したいという気持ちが芽生え始めていた。



そんなことも知らないぐちゃぐちゃな私は、



翌週、



ようやく"その人"と連絡を取ることができた。




ミナ
ミナ
…何も無かった、
ミナ
ミナ
…訳、なくない?
you
……は、?



連絡を取れた、矢先に自分を裏切ったのは相手方。








ミナ
ミナ
ごめん、…っ、ごめんあなたっ。

















ミナ
ミナ
おねが、いっ…

















ミナ
ミナ
…幻滅しないで




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