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第1話

 Prologue
167
2024/05/20 08:00
 窓際の席でいつも本を読んでいる物静かな
 少女だった。


 綺麗に切りそろえられた前髪の下にある大きな瞳が
 文字を追う。


 時折窓から入る風が彼女の髪を揺らしていく。


 俺は幾度となくその風景を目にしていたが
 3学期になるまであまり話したことはなかった。


 ある日突然駆け抜けた強風に、机の上に置いてい
 た栞がふわりと宙を舞い、通りがかった俺の足元
 に落ちてきた。


 「あ」小さく呟いた少女は立ち上がり、栞に手を
 伸ばしたが俺が先に拾い上げた。


 その栞は手作りらしく、淡いピンクの厚紙に
 切り取られた可愛いゲームキャラの写真とハートの
 シールが添えられラミネート加工されている。


 パンチで丸く切り抜かれた所に付けられたリボンは
 台紙より濃いピンクで目に鮮やかだ。
 「はい」と手渡すと「ありがとう」と小さな声が
 返ってきた。
i e
そのキャラ、好きなんですか?
 栞を指差し尋ねるとふわっと頬がピンクになり
 .
う、うん… 下手くそな手作りの栞だから恥ずかしい
 と、両手でギュッと握りしめていた栞を後ろ手に隠
 す仕草を見て今度はこっちが慌てた。
i e
そんなことないと思うけど……
 .
…!
ありがとう
i e
そのキャラ、ゲームのキャラですよね?俺も先月始めたんですけどそんなにハマるんですね
 .
そうだよ〜
 好きなキャラを褒められたことが嬉しかったらしく
 目を輝かせてそう教えてくれた。


 それがきっかけで初めてのゲームの攻略のコツを聞
 くようになり、お互いのプレイ動画を見せ
 あったり、面白エピソードを聞かせ合い笑った。


 そのうち他の話もよくするようになった。


 少女は読書が趣味だという。


 俺はネッ友と話してるのが好きで、あまり本を読む
 習慣がない。


 少女が読んでる本のあらすじや感想を聞くと読んだ
 気になるくらい面白く、言葉の紡ぎ方が心地
 良かった。


 逆に見えない相手との会話が苦手だという少女は
 俺の話を興味深く聞き、上手くなりたいという小さ
 な願いを叶えてやりたくてコツを教えた。


 穏やかな少女と話すことは楽し俺の日々にまた一つ
 小さな彩りが加わったがそれはあまり長くは続かな
 かった。


 2年に進級する春、少女は父の急な転勤で転校
 してしまったからだ。


 クラスや女子達と話す時には感じないものが
 ぼんやり俺の中に生まれていたが、それよりも
 ネッ友に勧められてゆっくり実況を見てからは
 好きなゲームにより一層のめり込んでいった
 こともあって、そのままいつしか忘れて
 しまった。


 今思えばそれは初恋だったのかもしれない。

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