第61話

60,最終回 後編
819
2022/05/08 10:00 更新
2021年8月


あなた
ここで、ホワイトが
爆弾の研究を……
あなた
ぼーんっ……
あなた
かだかだかだーっ……
あなた
んっふっふぅー……
これで爆売れだぁ
なんて、思いながら

本体と動機させている
タブレットの画面の上に
専用ペンを滑らせる。

つまり……
タブレットは固定電話の
子機ってことか……!!

やっぱりタブレットは
あまり使いやすくない……
『夏野歩·怪事件』は
2020年の初旬に
完結を迎え、

今は2021年に
始まった
新連載·『奥の近道』という
1900年代の
西洋風×知能×戦闘物語のような
漫画を描いている。
誰一人完全に信用しない、
軍属の若き天才医師(少女)と

島を守るために
最前線で戦う空軍の少尉が

敵軍、海軍、
上層部、世界と
戦って、喧嘩して、

心中する話……
あなた
と、考えてる……ドヤ
ドヤ顔を
している暇なんてなく
原稿の締め切りが
刻々と迫っている。



期日までに仕上げなければ、

アルバイトの
元なんでもやります要員で
正社員になり、

何かの縁で……
(というより、
松阪が管理職になった)

売れっ子作家·northという
もう一人の自分の
担当編集者となった赤葦さんに
半殺しにされる……
むんむんと熱気が
すごい。
夏ですなぁ……

兵庫県は
同じ日本でも東京都とは
猛暑日の数が違う。

北海道に住みたかったなぁ……
梅雨も無いし。



がたがたがたがた……
あなた
!!!
つるつるの画面から
ペンは滑り、

変なところに線画は入る。
デジタルだから
こんなことされても
平気だもんねー
というのは
どうでもよくて、

机を揺らしているのは
どこのどいつだ。

こちょこちょの刑に処す……
わたしの前に現れた
まだ上手に話せない
小さな二人は、

テレビのリモコンを
「つけて」と言わんばかりに

大きな真ん丸の目を
きらきらさせながら
わたしに渡してきた。
仕方ない……

夜テレビつけたら、
この人たち
ぜんぜん寝なくなるが、

この満面の笑みには……
くうっ……
勝てない……
ていうか、
なんで突然テレビ?
襖の方を見ると
祖母がにっこりと笑っていた。

どゆこと?

嬉しいか?

すると、
すっとホワイトボードを
出してきて、
ばぁちゃん
4チャンネルつけて
はい?!
仕方なく
4チャンをつけて、

小さな二人を横目に
仕事を再開させる。


しばらくすると、
胡座をかいている
太ももをぺたぺたと
四つの手で叩かれた。
なんすか?
楽しげるんるん☆な
小さな二人に手を引かれ、

連れていかれる。


テレビの液晶画面に映る
彼はこの会えなかった数日で
別人のように変わっていた。
人は、
いくつもの顔を
持っていると言う。

まさにその事ではないか。
小さな二人は
わたしにしがみついて
うれしそうにしている。

そんなに
父親を見たかったの?

わたしだったら、
父親どころか夫の
出てるテレビさえ
ろくに見ようとしないのに


テレビの中の彼は
今インタビューされていて、

難しそうな顔をしながら
答えている。

強くなれた秘訣(?)について
質問されたとき、

「自分がやること、やらなくてはならないことが減ったから、その分集中できた。」

と、回答した。
うむ、確かに……

料理·洗濯·掃除·買い物
生活力皆無な彼が
家事をすると、
返ってわたしの仕事が
増えるので

手伝ってくれないほうが
嬉しいと言ったが……

それを言ってしまうとは……
場所が変わったとか
そういうのあるでしょ!!
それについて深掘りされ、

それが誰か、
という話になった。

「……誰って、妻です。」

画面の中の彼は
何言ってるのこの人?
みたいな顔で言った。
あなた
?!???!!
小さな二人は
先程と変わらず
うれしそうにテレビを見ていた。
ぽんぽんっと
出てきていた字幕が途切れた。
こりゃ、
会場が静まり返ってるね、
声を裏返しながら
男性のインタビュアーが、

「いつ?!?!」

と聞いた。

「2019年始まってすぐです。二人だけで結婚式挙げました。」

「2019年?!」
こりゃ御愁傷様。
根掘り葉掘り聞かれるぞ?

なんだか、恥ずかしくなって
テレビを消そうとすると、

それを見かねた
小さな手が、
ひしっとリモコンを
握りしめた。
「お、奥様は、どんな方で、、?」

「人間、です、」

「あ、はい、ちなみにお子さん、とか、」

「二人、います。双子?ってやつ。」

「(もう、なんか、この人怖い、さらっと言うし、)」
その後も彼の話が続き、

うとうとしてきた
小さな二人を
布団に寝かせ、
作業を再開させた。

深夜になって、
わたしも布団に潜ったとき
スマホが鳴った。
あなた
LINEか、
某筋肉芸人の
「すみません」
というスタンプと、

謝罪文
(ルーズリーフ1枚に
びっしりきったねぇ字で
書かれた写メ)と、

愛(?)のこもった
ラブレター
(ルーズリーフ1枚に
びっしりきったねぇ字で
書かれた写メ)が

送られてきた。
もう、なんなんだか、
ありがた迷惑っていうか、
ほんっとに変な人……
ゴタゴタだらけの日常。

だからこそ失うもの、
それに比例するように
得られるものがある。

わたしは
隣に寝る、
仲が良いんだか悪いんだ
かわからない小さな二人の、

彼によく似た
濡烏色の丸い頭と
わたしによく似た
色素の薄い丸い頭をを撫でた。

こんなに暑いのに
なぜか清々しい気分になった。

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