_彰人side_
カイトさんが出て行った
類の返事はなかった
代わりに…
かわいい寝顔があった
優しく撫でると
モゾモゾと動く
そして類の手を握る
もう片方の手を伸ばして、ベッドの近くに椅子を持ってくる
……類の不安は、いつになったら拭えるんだろうか
いつになったら、類は
人を恐れず、光の下で笑顔を見せてくれるだろう
いつになったら、俺たちは…
もう一度、あの場所に戻れるだろう
戻りたいと思うか、と言われれば
かと言って、戻れないと言われても
俺は、類や「黒百合のセカイ」の奴らと一緒に居られればそれで良い
戻れなくても、別に何も思わない
………例え、この世界から
見放されたとしても
類が…
「黒百合」の皆がいるなら…
かわいいなおい
舌足らず
類と2人で広間へ向かう
類が顔を覗かせる
雫が立ち上がって類に微笑み掛ける
ふわっと微笑む類
2人とも嬉しそうに微笑んでいる
あぁ、本当に…
このまま、幸せでいてほしい…
あんな辛い事は、全部忘れて
類の笑顔は、俺だけが
俺たちだけが、知っていれば良いんだ
……いつからこんなに大きな
どす黒い感情があったか
…………きっと、それだけ
類の事が好きになったんだろうな
離したくない、離さない
絶対に、離してやらない
アイスキャンディーの袋を開けて中身を出す
髪を上げて、あ と口を開ける
少し微笑んで類が俺を見上げる
棒ごと渡す
嬉しそうにアイスを食べている類
ずっとこうして、笑っていたい
なんて、思ってた
「叶わない」未来は、俺の頭にはなかった
だからあの後、こんな事になるなんて思ってもいなかった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!