両手を差し出すと、奨くんは驚いたように目を丸くしたあと、すぐにいつもの優しい目元を緩めて俺を軽々と抱き上げてくれた。
なぜか朝起きたら、俺は、小学校低学年くらいのみんなより遥かに小さな姿になってしまっていた。
突然の事態に楽屋は大混乱だったけれど、俺は、内心「大チャンス」だと確信していた。
記憶をなくしたフリをして、俺が特別な想いを寄せる奨くんに甘えまくっているのだ。
俺たちは付き合っていない。
それどころか、奨くんは俺のことを大切なグループのメンバーとしか思っていない。
だからこそ、この子供の姿を利用して、彼に男としての俺を意識させてやろうと企んでいた。
心配そうに覗き込んでくる奨くんに、俺はこくりと首を傾げてみせる。
ストレートに伝えると、奨くんは「えっ……あ、ありがとう」と、耳の先をほんのり赤くした。
よし、まずは第一段階クリアだ。
そんな風に、奨くんの膝の上という特等席を独占して満足していたのも束の間。
楽屋にいた他のメンバーたちが、物珍しそうに集まってきた。
祥生が目を輝かせて近寄ってくると、純喜も「おい瑠姫、俺のこと分かるか? ほら、こっちおいでや!」と、俺を奨くんの膝から引き離そうと両手を伸ばしてくる。
せっかく手に入れた特等席だ。
純喜や祥生に連れて行かれたら、奨くんに甘える時間がなくなってしまう。
焦った俺は、彼らの手をすり抜けるようにして、奨くんの服の裾をぎゅっと握りしめた。
奨くんが俺を庇うように、大きな手で背中を優しく支えてくれた、その瞬間だった。
純喜が「そんなこと言わずにー!」と冗談半分で俺の背中に触れようとして、バランスを崩して俺を少し押し出す形になった。
俺はそれを絶好のチャンスと捉えた。
純喜に押されてよろめいた「事故」を完璧に装い、俺は奨くんの胸元に飛び込みながら、その勢いのまま、彼の顔を目がけて思いきり顔を上げた。
柔らかな感触が、唇に当たる。
楽屋中の時が止まった。
純喜も祥生も、近くで見ていたメンバー全員が息を呑んで固まっている。
そして何より、唇を重ねられた当の本人の奨くんはフリーズしていた。
見開かれた瞳が、至近距離で俺を捉えている。
みるみるうちに、彼の顔が耳の先から首筋まで、真っ赤に染まっていくのが分かった。
そう、きっとこれが奨くんにとっての、『ファーストキス』。
ゆっくりと唇を離すと、俺はこれ以上ないくらい無垢な子供の表情を作り、首を傾げてみせた。
奨くんはキャパオーバーを起こしたようで、真っ赤な顔のまま、声が裏返っている。
心臓がトクトクと激しく脈打っているのが、触れている体を通して伝わってきた。
周りでは「えええええ!?」「純喜くんのせいだぞ!」「奨くん!?」とメンバーたちが大騒ぎしている。
そんな喧騒を余所に、俺は心の中でフッと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
これで奨くんは、これから先、元の姿に戻った俺の顔を見るたびに、今日のこの熱い唇の感触を絶対に思い出すことになる。
動揺で硬直している恋人未満の最年長に、俺はもう一度、甘えるようにぴったりと体を預けるのだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!