第9話

ファイルⅠ S-G
22
2026/05/09 12:00 更新
机に置かれた本をパラパラとめくる。
午前6時の静かな木漏れ日。
施設の子供達はまだ幸せな夢の中だ。
再び本の内容に目を走らせる。
もう何度も読んだ内容。
好きなシーンは暗唱できるほどに脳裏に染み付いてしまっている。
新刊が入らないことを残念に思いながらノートを取り出す。
これは施設で習った授業内容をまとめたものでもなければ、課題を書き写すものでもない。
施設にいるうちに感じた違和感、そして外の世界のことを書き留めたものだ。
本来ならこれが先生に見つかってしまえば速攻没収されてもおかしくない。
だから私は誕生日に先生へとリクエストした鍵付きの日記を改良してノートを作り上げた。
私は分かっている。
今回私たちの代から魔物の討伐へ出兵されたのはあまりにもその能力が異常だから。
きっと私の幼馴染は誰も図書室にある資料に目を通さないから知らないだろう。
芽結を含む私の幼馴染たちの実力はあまりにも特筆していることを。
みんなはまだ知らない。
上級生よりも私たちの方が戦闘能力がはるかに高いことを。
みんなはまだ知らない。
私たちの実力は施設を出ても十分に通用することを。
それでも私たちがまだ施設にいるのはその力が大人たちにとっても脅威になり得るから。
あの人たちは私たちを利用することしか考えていない。
だから私は先生に何かを尋ねることはしない。
いつだって信じられるのは自分で調べた情報だけだから。
いつだって信じられるのは自分自身だけだから。
だけど私はこの施設を出て行くことができない。
だってそれは日菜や楪子を悲しませることになるから。
だってそれは最低限の衣食住を失うかもしれないから。
だってそれは死と隣り合わせの世界への入り口だから。
だってそれは幼馴染を不幸にさせるかもしれないから。
だから私はまだこの鳥籠の中から逃げることができない。
良いように利用されていることを知っていても抗うことはできない。
_日菜@ひな_
日菜ひな
…紗里奈ちゃんもう起きてたの?
まだ夢の中にいるような、ふわふわした声で名前を呼ばれる。
_紗里奈@さりな_
紗里奈さりな
おはよう日菜
_紗里奈@さりな_
紗里奈さりな
まだ朝礼には時間あるから寝てていいよ
_日菜@ひな_
日菜ひな
うん…
そう言えばベッドからは数分もせずに小さな寝息が聞こえてくる。
日菜が再び眠りについたことを確認し、机の方へ向き直る。
私たちがこの施設を出ることになるのは15歳になった年の3月。
卒業のための試験もあるが、きっとこのメンバーなら楽にクリアできるだろう。
心配なのは座学のテストだけ。
それと…
_紗里奈@さりな_
紗里奈さりな
(日菜は1年遅れるからな)
私たちは今年12歳になる。
だけど日菜は月海の妹、今年で11歳だ。
だからどうしても日菜がここから出るのは私たちよりも1年遅くなってしまう。
そのための対策も練らないといけない。
日菜も一緒に連れいていくのか、ここで1年待っててもらうのか。
_紗里奈@さりな_
紗里奈さりな
(もうしばらくしたら話すからね)
気付けば長針はもう半周もしている。
今日は私と流星が朝食の係だ。
きっと流星はそのことを忘れている。
起こしに行かなきゃな、なんて手のかかる幼馴染のことを思いながら私はノートに鍵をかけた。

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