第7話

記憶か、虚偽の記憶か、
123
2026/01/07 06:00 更新


あの孤児院に来たのは、5歳のころ。





気づいたときには、鉄の門の中にいて、
そこがどんな場所かは、一日も経たずに理解した。




“子ども”として扱われるわけじゃない。




“使えるかどうか”だけの世界。

俺はそこでただひたすら考えていた。








 どうやったら抜け出せるか。

 どうやったら自分を守れるか。

 どうやったら、この理不尽な場所の理屈をひっくり返せるか。








 だけど――






 「ねぇ、大丈夫?」





 その声だけは、異質だった。






いつも息をひそめているくせに、人のことばっかり気にしてるやつ。






咳を必死で隠して、苦しそうなのに強がって、
なのに他人の分の水までそっと分けようとする。







 (……まったく、合理的じゃねぇ。)




なのに、気づけばいつも、視界の端にいた。








あいつが倒れそうになると、
理由もなく動いていた自分が一番意味わかんねぇ……。










 「無理すんな。そんな顔してりゃバレるだろ」

 「……っ、平気だよ!笑」








 平気じゃねぇのは、見りゃわかる。







だけど、あいつは絶対に泣かない。




弱みを見せない。






この世界で生き残るためには、それしか方法がねぇと知っているみたいだった。

 




 そんな日々が続くと思っていたある日、“里親候補”が現れた。







あいつの名前が呼ばれた瞬間、
俺はほんの一瞬、胸が軽くなるのを感じた。





 (――良かったじゃねぇか。やっと、地獄から抜けられる。)







だけど、あいつの口から出た言葉は予想外だった。






 「わたしじゃなくて……この子をお願いしますッ……」






 頭が真っ白になった。




 ふざけんな、って叫び出しそうになった。






(なんでだよ。なんでてめぇがそんな顔で頭下げんだよ。)








だが、周囲の大人はその言葉を“都合よく”受け取り、
 俺はそのまま外の世界へ引き取られることになった。






 どんだけ言っても、あいつは一ミリも退かねぇ。





目を合わせた瞬間に悟った。





――この頑固さ、説得なんざ無意味だってな。






(…チッ、どうせ止められねぇなら、こっちも覚悟決めるしかねぇだろ)






 だったら俺が外に出て、最速で助け出す。





計画もリスクも全部承知の上で、そう腹を括った。





 今思やぁガキっぽいが、その時の俺は妙に熱くなってた。




気づいたら指切りなんざ差し出してた。




柄じゃねぇ行動だって自覚はあったが、あいつは普通に応じやがった。







どういう風吹いたのか、俺は赤いミサンガを取り出して手渡していた。





「……これ付けとけ。長ぇ間耐えんのに多少は役立つだろ。
 それと――どんだけ離れようが、世界のどこにいようが、
 俺が必ず見つけ出す。科学的に確実にな」






 言いながら自分で笑えてきた。





こんな感情論みてぇなこと、俺のキャラじゃねぇのにな。笑





 だが、その細っこいミサンガが示すもんは単純だ。






“約束”だの“縁”だの、そういう曖昧なもんじゃねぇ。





――俺自身の意志だ。





 絶対に見つけ出す。




それだけは、嘘偽りなく断言できる。






 春奈だけ地獄に置き去りで。






 最後に見えた彼女の顔は、泣いているでも笑っているでもない、
 あの場所に似つかわしくないほど静かな表情だった。







(――あいつ、何考えてんだ。ってか、なんで俺なんかを選ぶんだよ。)








 外に出たあとも、その疑問だけが残り続けた。



 

 新しい生活は、前よりずっとマシだった。




いや、贅沢すぎたくらいだ。




俺を育ててくれたのは百夜というくだらねぇ事でいっつも騒ぎまくる飛行士だ。







頼りねーが俺が科学に興味を持った頃
バカ高ぇ装置を買うために車まで売りやがった。






そんな充実した生活をしていた。






 それでも、夜になると必ず思い出す。






 『大丈夫だよ。わたしがいるから!笑』





 なんて、あの日の小さな声が。

 





 (――あいつは今、どうしてる?――ちゃんと生きてるか?
いや、喘息持ちのあいつのことだ、、確証はねぇ……
ゆっくりしてる時間はねぇ……ッ)




 

そんな思いを抱えて、あいつを助ける為にSNSやインターネット、孤児院の制度、その他の仕組みを片っ端から学び続けて、



16歳になったある日。





空が、変な光で染まった。






 風でも雷でもねぇ、説明できない未知の現象。






 視界が光に飲み込まれる。








 「……チッ、何だよこれ……!」








 その瞬間、自分の身体が動かなくなった。





 何かに包まれるような感覚。





 凍りつくみたいな静けさ。





 世界そのものが止まった――そんな感覚だった。









。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+* ゚ ゜゚ *


 

 
2人はまだ知らない
これは“再会”へ向かう運命のはじまりだなんて。

プリ小説オーディオドラマ