第24話

春と秋
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2024/04/07 09:00
椛side

光がないのに明るい場所にいた。

体の感覚が自分のものじゃないみたいにふわふわして、すぐに夢だと分かった。

私の他にも誰かがいる。

誰かいるのは分かるけど、姿は見えなかった。
???
ねえ、椛は、何のために生きてるの?
城戸 椛
死ねないから、生きてるだけ。

母が私を無視するようになったあの日、私の価値はなくなった。

生きていても意味のない人間だから、母に捨てられた。

いつ死んでもいいと思いながら生きてきた。

でも、拾って育ててくれた人のことを考えると、自分から命を捨てることはできなかった。
???
いらないなら、あなたの命、咲楽にあげてよ。

あげられるならあげたいと、何度も思った。

でも、それはそんな簡単なことじゃない。

咲楽の病気が発覚した時、病気が悪化した時。

咲楽の両親──こずえさんも葉介さんも、すごく泣いていた。

それを見た時、ふと思った。

私が死んで、咲楽が助かればいいのに、と。

私には病気になっても泣いてくれる親はいないし、そもそも気づいてくれる人すらいない。

でも、咲楽は愛されていて、周りの人に恵まれていて、才能に溢れている。

そんな咲楽が羨ましいけど、大好きだから。

私なりに調べたり、咲楽の主治医に聞いたりしたことがあった。

肺移植について。


咲楽の病気は今のところ有効な治療法がなくて、肺移植が検討される病気だ。

肺と心臓の病気で肺の方が重症の咲楽は、成功したらきっと回復する。

もし私が自殺して、脳死になったら……と考えてしまった。

でも、肺以外に病気がある人は、移植を受けられないらしいから咲楽は対象外だった。

そもそも、そんなに簡単に脳死にはなれないだろう。
???
簡単だよ。椛が死んだらいいの。
城戸 椛
それで何が変わるの?
???
さくらともみじは共存できない。それだけ。

春に咲くさくらと、秋に色付くもみじ。

その2つが共存できないのは当たり前だ。

でも、それが私たちの命とどんな関係があるのか。

名前が同じというだけで。

理論は分からないけど、何となく理解はできた。
???
咲楽が死ねば椛は生きる。
城戸 椛
私が死ねば……
???
そう、咲楽は生きる。幸せになれる。生きる価値のないあなたよりも、幸せになる価値はあるでしょう?

彼女の通りだと思った。
それが女性か男性かは分からないけど。

でも、何となく想像はできる。

石倉、こずえさんと葉介さん、仲のいい看護師のまみさん。

咲楽のことが大好きな人達の誰かの心の声か、その複数人の心の声か。

???
死ぬのは怖い。でも、生きるのはもっと怖い。

私の心が見えているみたいだ。

笑顔を貼り付けていたら、周りの人はいい距離感を保ってくれる。
傷に触れられることも、新たに付けられることもない。

でも、それは今のところ上手くいっているだけで、結局いつか…と思うと怖いことに変わりはない。
???
勘のいいあなたなら分かってるんでしょ?
城戸 椛
え……?
???
その時限爆弾、タイムリミットは1ヶ月もないよ。

鼓動が速くなるのを感じた。

時限爆弾が何を意味するのか、考えなくても分かった。
???
また、殺されるんだよ。誰に、とは言わないけど。

″また″、殺される。

前の死が心の死だとしたら、次は体の死。


なぜか手が震えた。

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