人間には、色んな者がいる。
お調子者や真面目な者、勇敢な者や臆病者。
賢い者、愚か者…善人と呼ばれる者、悪人と呼ばれる者。
それぞれが違った考え方で、出来事へのリアクションもそれぞれ違う。
でも、そんな人間達が揃って同じリアクションを取ることがある。
そう。
「本物の狂気」を知った時だ。
【札芭side】
数秒前に閉ざされた門を見上げ、僕は首を傾げた。
たらこが隣で溜息を吐く。
ここは霊峰からほど近い、小さな村。
ナイアルラトホテプ様の信者を獲得する為、布教に訪れたのだ。
…が、「カルト宗教とかいらんから」と村の外に放り出されてしまった。
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【百万の恵まれたるもの】
邪神ナイアルラトホテプの眷属達の総称。
ナイアルラトホテプが自らの化身を変化させたり、気に入った人間を作り替えたりして誕生させる。
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と、その時。
見張り台から、村の人が怒鳴りつけてきた。
その手に構えられた銃が、僕達に向けられている。
それだけ叫び、村の人は頭を引っ込めてしまった。
僕の手の中で、ネクロノミコンが淡く光を放った。
捲れたページに描かれた魔法陣が輝き、僕達の目の前に1人の女性が現れた。
腰の曲がった老婆。
その両目は眼球の代わりに、赤黒い触手が生え出ている。
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【涙の聖母】
百万の恵まれたるもの。
「嘆きの聖母たち」三姉妹の長女である。
耳が聞こえない。
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しわがれた声で、涙の聖母が問う。
僕は声を出さずに、彼女に語りかけた。
彼女の袖から、黒い粒のようなものが幾つか零れ落ちる。
その粒達はモゾモゾ蠢き、やがて翅を広げて飛び立った。
流石に、小さな虫の侵入をとやかく言うものは居ない。
僕達は近くの雑木林に身を潜め、斥候の帰還を待つことにした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。