第10話

5-ⅱ:千の無貌
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2023/02/19 05:35
【札芭side】
大分時間が経ち、日が暮れてきた。
一度村の人が見張り台から顔を出したが、こちらを発見されることなくやり過ごせた。
涙の聖母
…戻ッてきマしたワ、司祭様
村の方から、数匹の蟲が飛んで戻ってくる。
それらは全て、涙の聖母の袖に潜り込んでいった。
札芭
札芭
(どうでした?)
涙の聖母
……
老婆の血の気の無い真っ白な顔が、微かに不快そうにしかめられる。
彼女の話を聞いた僕達は、顔を見合わせた。
札芭
札芭
それ…神様って言うんでしょうか
たらこ
便利屋と大差ないじゃん。崇拝の意味、間違えてね?
そうか…こんなのが、神様として崇められてるんだ。
こんなのに、ナイアルラトホテプ様の信者達が奪われたんだ…。
札芭
札芭
…たらこ。僕…
たらこ
うん、わかるよ。俺も同じこと考えてる
札芭
札芭
涙さん。他のご姉妹も呼んでください
涙の聖母
かシこまリましたワ
本物の神様を知らない、哀れな人達。
僕達が、キチンと教えてあげます。
ナイアルラトホテプ様という、本物の神様を。
【NO side】
村の中央広場。
夕焼けの下で、儀式が始まった。
異教の教祖
皆、揃ったな?さぁ、今宵も祈りを捧げよう
村人達は中央の祭壇に跪き、己の信仰する神に祈る。
しんと静まり返った広場。
言葉を発する者は、誰もいない。
…その時、広場に踏み込んで来た2人組がいた。
異教の教祖
何をしている。礼拝はもう始まって…
振り返った教祖は、目を見開いた。
入ってきた2人組は、昼間に村から追い出した少年達だったから。
警備
あっ、お前ら…‼︎
警備の者が、銃を手に取る。
札芭
札芭
…何してるんです
警備
札芭
札芭
貴方達は神の御前に、そんなものを持ち込むんですか?
警備
わ、悪いなんて教祖様は一言も…!
少年は溜息を吐いた。
札芭
札芭
ダメですね。…村人の皆さん!
札芭
札芭
今日から貴方達には、改宗して頂きます!
村人達はざわついた。
村人
ちょっと待て!何勝手なこと…!
少年に詰め寄ろうとした1人は、隣に立っていた女顔の少年に行手を阻まれた。
たらこ
近づかないでくんない?ウチの司祭に
村人
司祭…?その坊主が?
村人達はせせら笑った。
とても信じられなかったのだ。
異教の教祖
去れ、邪教徒。ここは聖なる地ぞ
たらこ
邪教徒?お前らの方やん。ね、ふたは
札芭
札芭
ですね。聖母さん達も、そう思うでしょう?
???
「「はイ、司祭様」」
広場の周囲、3方向から彼女らは現れた。
老齢、大人、そして少女。
それぞれが目・口・顔全体から触手が生え出ており、明らかに人間ではない。
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【嘆きの聖母】
百万の恵まれたるもの。
二、三十代ほどの女性の見た目をしている。
声が出せない。
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【闇の聖母】
百万の恵まれたるもの。
(後ろ姿は)可憐な少女の姿をしている。
目が見えない。
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異教の教祖
村人
ひ、ば…化け物‼︎
数人の村人達が広場から逃走しようとした。
しかし即座に聖母達に捕えられ、広場に放り戻されてしまう。
札芭
札芭
女性に失礼ですよ
そう言いながら、札芭は祭壇の元にいる教祖に近づいていく。
警備
さ、退がれ‼︎
2人の警備の者が、札芭の前に立ち塞がる…が。
無造作に少年の両手が伸ばされ、警備の者達に触れる。
刹那、2人の警備の姿が描き消えた。
代わりに2体のフェルトの人形が、石畳の道にポトリと落ちた。
それを拾い上げ、札芭は微笑む。
札芭
札芭
ちょうどいいので、この方達にもお手伝いしてもらいましょうか
…これから、粛正が始まる。

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