【札芭side】
大分時間が経ち、日が暮れてきた。
一度村の人が見張り台から顔を出したが、こちらを発見されることなくやり過ごせた。
村の方から、数匹の蟲が飛んで戻ってくる。
それらは全て、涙の聖母の袖に潜り込んでいった。
老婆の血の気の無い真っ白な顔が、微かに不快そうにしかめられる。
彼女の話を聞いた僕達は、顔を見合わせた。
そうか…こんなのが、神様として崇められてるんだ。
こんなのに、ナイアルラトホテプ様の信者達が奪われたんだ…。
本物の神様を知らない、哀れな人達。
僕達が、キチンと教えてあげます。
ナイアルラトホテプ様という、本物の神様を。
【NO side】
村の中央広場。
夕焼けの下で、儀式が始まった。
村人達は中央の祭壇に跪き、己の信仰する神に祈る。
しんと静まり返った広場。
言葉を発する者は、誰もいない。
…その時、広場に踏み込んで来た2人組がいた。
振り返った教祖は、目を見開いた。
入ってきた2人組は、昼間に村から追い出した少年達だったから。
警備の者が、銃を手に取る。
少年は溜息を吐いた。
村人達はざわついた。
少年に詰め寄ろうとした1人は、隣に立っていた女顔の少年に行手を阻まれた。
村人達はせせら笑った。
とても信じられなかったのだ。
広場の周囲、3方向から彼女らは現れた。
老齢、大人、そして少女。
それぞれが目・口・顔全体から触手が生え出ており、明らかに人間ではない。
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【嘆きの聖母】
百万の恵まれたるもの。
二、三十代ほどの女性の見た目をしている。
声が出せない。
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【闇の聖母】
百万の恵まれたるもの。
(後ろ姿は)可憐な少女の姿をしている。
目が見えない。
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数人の村人達が広場から逃走しようとした。
しかし即座に聖母達に捕えられ、広場に放り戻されてしまう。
そう言いながら、札芭は祭壇の元にいる教祖に近づいていく。
2人の警備の者が、札芭の前に立ち塞がる…が。
無造作に少年の両手が伸ばされ、警備の者達に触れる。
刹那、2人の警備の姿が描き消えた。
代わりに2体のフェルトの人形が、石畳の道にポトリと落ちた。
それを拾い上げ、札芭は微笑む。
…これから、粛正が始まる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!